農協への加入

 出発前日である。正直言って、島を離れるのは好きではない。俺のような専業農家は、自分の農場を開けることに、激しく不安を感じるのだ。留守中に何かあった場合、対応が遅れると、その後の生活にもろに影響が出る。
 今回は、村営船みしまがドック入り中のため、代替船としまが応援に来てくれる。としまは、十島村を回る船だ。そのため、明日出港したら、20日まで島は孤立する。
 出来る限りの事をしていこう。
 出産予定日が近い黄色の32番を、黒島崎放牧地から連れて帰った。飛行場を横切るときは、左右を見るだけでなく、延長線上の空まで見なければならないのだ。そして、滑走路に土産物を落とさないよう、すみやかに横断するのだ。
 出荷牛の8頭には、出荷用のオモテを取り付ける。まだまだ暴れたい年頃の子牛たちは、足の悪い俺を引き摺って、小屋の中を走り回った。ちょっとは、労れ!
 大子牛部屋の糞出しをした。柵で子牛を隅に寄せて置いて、ボブキャットで一気に剥がす。剥がした後は、ロールを転がしてきて、手で敷きワラを万遍なく広げた。フロントローダーが使えれば、大ざっぱにほぐして広げることが出来るので、作業はかなり楽になるのだが・・・。修理は、市場から帰ってからになる。
 ハルカを捕獲し、鼻紋を取った。母牛として登録するためだ。
 これまで三島村の農家は、農協に入っていなかった。だが、農協法では組合員以外に販売するのは、全体の20%以下にしなければならないとされていて、かなりオーバーしているらしい。飼料や肥料を買うため、順組合員として加入することになった。
 俺としては、サービスが向上する可能性もないのに、増資を断れないような雰囲気になるのは、困ると釘を刺しておいた。