肥育牛の旅立ち

 昨夜は遅かったので、朝が辛かった。だが、預かりモノの肥育牛三頭を、船に運ばなければならなかった。雨が降っていたので、登山用のカッパを持って、牛舎に行く。
 肥育牛達には、最期の食事をとらせた。
 これまで、出来るだけ刺激しないように接してきた。捕まえるのも、初めてだ。
 注意されていたのは、一頭気性の荒い牝がいて、捕まえるときに怪我をしないようにとのことだった。除角していないので、油断するととても危険だ。
 まず鼻輪を捕まえ、ロープで結ぼうとしたら、首を下に捻って俺の体を崩した。すかさず手を放したが、放さなかったら、次の瞬間突き上げてきた角の餌食になっていただろう。首縄を少しずつ短くして、トリッキーな動きが出来ないようにしておいてから、鼻輪を結んだ。
 港まで運ぶトレーラーに、二頭乗せることが出来たら、二往復ですむ。だが、一頭乗せた後に、気の荒い牝を乗せようとしたら、全く乗ろうとしなかった。仕方なく、一頭ずつ行く。
 雨が激しくなり、飛沫で前が見えないほどになった。牛が転ばないように、過減速無くゆっくり港に向かう。スコールの中、牛を降ろす。荷台から地面に降りる板が滑るので、この雌牛は悩んだ末に、飛び降りていた。

 去勢牛は、仲の良いローズに別れを言った後、素直に乗ってくれた。
 最後の一頭だが、時間をかけて誘導しても乗ろうとしなかったので、トレーラーを高台のところに着けて、高低差無く乗り込めるようにして、ようやく乗せることが出来た。
 港では、家畜運搬用コンテナに乗せると、フォークリフトで船に積み込んでくれるのだ。

 ガンは、今日で帰るので、朝は帰り支度に専念してもらっていた。俺の仕事が手間取り、出港手続直前になってしまったので、車で港に送る。待合室は、合宿に来ていた中学生でいっぱいだった。
 飯を食い終わると、さりげなくガンが皿を下げて、洗ってくれた。明日は、ご飯を炊いておこうというと、すぐにセットしてくれた。明日からは、全部一人でやらないとならないなぁ。目標を達成できるよう、祈ってるよ。