鼻紋取り

 親子牛が、飛行場を彷徨いていると思うと、あまりいい気がしなかった。捕獲には危険が伴い、朝仕事に行くのに、気が重かった。
 とりあえず飛行場に行ってみたら、藪から出たところに、親子がいた。一旦、捕獲のために柄の長いフックを取りに帰り、興奮させないように接近した。藪に逃げ込む態勢を取ったので、先回りしてさりげなく追い返す。とにかく、必要以上のプレッシャーをかけないよう、細心の注意を払った。近づくと、突進する態勢を取る。だが、首から垂れたロープが、それを押さえてくれていた。
 しばらく落ち着かせたところで、フックを使って首から垂れ下がっているロープを拾い、突進されないように気をつけながら、ハイラックスの荷台に繋いだ。もう一本のロープも、同様に拾い、荷台の反対側にしばる。離れていた子牛を、驚かせないように気をつけながら、母親の側に追う。
 ハイラックスを,4WDの低速ギアに落とし、人が歩く半分くらいの速さで引いた。ときどき、止まったり減速したり・・・。ロープに無理な力がかからないよう、細心の注意を払った。
 とりあえず牛舎に着いた。ここでも、細心の注意を払って、既に親子が一組入った部屋に誘導した。だが、娘のナナミは、なかなか入ってくれなかった。とりあえず、これで一安心。

 今日は獣医さんが来て、出荷牛の予防接種と、北海道から連れてきた牛12頭の鼻紋取りだった。3ヶ所の放牧地に分散した瀬棚組は、発見するのさえ一仕事だ。
 大浦放牧地では、なぜか瀬棚組だけ帰ってこなかった。こういう場合、彼らが潜んでいる場所が特定できるので、ロープを一本もって向かえに行った。モトツボを捕まえ、引いて帰る。彼女は、馬並みに楽に引けるのだ。他の牛も着いてくる。そのまま、水飲み場の柵の中に連れ込み、捕まえて柵に繋いだ。
 灯台下でも、同じようにして、瀬棚組を確保した。
 この段階では、小雨が時々降り、涼しかった。だが、船が入る時間になったら、突然快晴になり、殺人的な日射しが風景を一変させた。たぶん、これが梅雨明けかな?
 硫黄島のファッションは、さらに強化されて、顔を隠すようになっていた。

 今日の船には、獣医さんの他に、まいうーの石塚さんが乗っていた。
 あまりに暑くなったので、繋いである牛達が心配になった。炎天下に繋いだままにしておくと、熱射病で死んでしまうこともあるのだ。獣医さんに相談し、先に鼻紋取りをして貰うことになった。
 暑い日に、熱い牛の体に密着して押さえると、サウナに入ったように汗をかく。鼻紋を取って放してやると、真っ直ぐ水を飲みにいった。
 出荷する子牛に、予防接種も行った。北海道では、生後3ヶ月までにすませていた注射で、大きな子牛を捕まえて注射するのは、大変だった。まぁ、出荷するときは、どうせ捕まえるのだが・・・。

 夕方もう一度来ていただき、足の悪い母牛を診てもらった。静三郎の母親だが、足が痛くて群について歩けないのだ。たぶん、淘汰するしか選択肢が無さそうだった。・・・

 夕方、開発センター前の広場で、石ちゃんとの懇親会があった。鯛などの焼き魚や、タケノコやハマボウフウの天ぷら、フキなどが出た。チビキという高級魚の刺身も出た。脂の乗った甘みのある刺身だった。