受難

yonemiki2010-06-10

 目覚めてしばらくしたら、パンが焼けたというお知らせの音がした。すかさず見に行く若者。
「なんだこれぇ〜?」
見に行くと、果たしてパンとミルクが混ざっていなかった。たまにやる失敗で、撹拌のフィンを着け忘れたのだ。朝食の計画変更。冷蔵庫を漁り、買いパンと冷凍ピラフを発見!とりあえず、何とかなりそうだ。とりあえず朝牛舎にいった後、実際に作ってみたら、かなり豪華だった。
 湾の牛行方不明事件を起こさないために、崖際ギリギリに作られたバラ線の柵を、3m内側に移動させてもらった。バラ線を移動させるのは、けっこうたいへんで、根気が必要だが、3人の若者は、文句を言わずに真面目に働いていた。
 あやめとその母親を、徳太郎の部屋に移してみた。順番待ちの妊娠牛を入れるには、部屋を開けなければならないのだ。入れてみたら、徳太郎の母おとくは、あやめを苛めた。身軽なあやめは、エサ箱を乗り越えて、外に脱走していた。再び入れても、すぐに追い出される。角材を使って、子牛専用スペースを作ってやったが、時既に遅し。あやめは、避難スペースではなく外に逃げる事を覚えてしまった。
 今日は、3頭発情していた。獣医さんや鼻紋取りに役場の人が来るので、あわただしそうだった。
 最終活動日となる『とし』のために、カヤックを用意した。港沖のテトラポット付近には、大物が潜んでいるに違いないとそそのかしたのだ。カヤック経験があるというので、俺は油断していた。ボディーボードの若者をひっぱての船出は、大変そうだった。

 見送った後、俺は仕事に戻った。
 子牛の鼻紋を取るのだ。人の指紋と同じで、牛の鼻の模様は、一生変わらない。子牛を登録する際は、この鼻紋が個体識別の決め手となる。
 登録用の鼻紋は、もっと小さな時に取ることが多い。大きいと、押さえるのが楽ではない。しかも、頭数が多すぎ!
 夕方になってしまったが、種付けだ。『華春福』と『勝安竜』を使った。小屋下の若い牛を、直腸から内診したところ、膣(子宮?)が腫れており、まるで妊娠しているようだった。膣鏡で中を覗いてみたら、赤っぽいはずの膣内が、白く腫れ上がっていて、汚い液が溜まっていた。鉗子を使うと、血が出てしまうので、使用を中止した。溶かしてしまった『華春福』は、子宮口入り口に出した。膣炎か子宮炎と思い、獣医さんに連絡し、指示を仰いだ。
 種付けが終わったのは、7時前だった。それからエサやりなのだが、若者達はまだ帰ってこなかった。いろいろ不吉な予感はあったのだが、疲れて寝ているのだろうと思い返し、気にせず仕事を続行した。
 若者は、疲れ切って帰ってきた。カヌーのフレームが折れていた。後で聞いたところ、テトラポットに乗り移るために、カヤックに立って飛び移ろうとしたらしい。当然転覆したカヤックは、猛烈に重くなる。それが波でテトラポットに押しつけられ・・・(T_T)/~~~  乗り移り方を教えるべきだった。

 遅くなったが、オーブンを200℃に温め、仕込んであったチキンを二羽入れて、東温泉に行った。温泉に浸かり、星や海を見ながら、いろいろ話をした。楽しかった。
 帰ったら、チキンが焼けていた。ナイフを入れて、取り分けやすくして、食卓へ!胸肉までしっとりとした、美味しいチキンが、一羽たったの1000円!品書きには載っていないが、相談してみてください。ローストチキンは、人を持て成すにはとても効果的だ。