敷きワラ好き

 口蹄疫の被害拡大が続いているそうな。テレビの無い俺も、ネットなどでその様子を知ることが出来るし、村から消毒薬や石灰が届いたりしている。
 離島なので、人の往き来が少なく、内地よりはリスクが少ない。それでも、5月市場は閉鎖され、6月も危ういかな?
 一度感染牛が出ると、島の牛は全部処分される。
 ネット上では、発生源となった農場では、5年間牛や豚を飼えないと言う話がまことしやかに言われていたが、事実ではないらしい。しかし、畜産業は経営を開始してから利益が上がり始めるまでに時間がかかり、相当の強い意志と資金援助が無ければ、再開は無理である。
 申し訳ないけど、対岸の火事で終わってくれることを、ひたすら祈るだけだ。
「人には感染せず、感染が疑われる地域の農場に行ったことがなければ人が動物に感染させることはない。感染地域以外では過剰に反応する必要はない。」
「洋服や靴などに口蹄疫ウイルスに感染したよだれなどが付着した場合、数週間は感染力を失わない。感染が疑われる地域の農場に行ったことがある場合は、牛や豚などの家畜に接しないようにすべきだ。」
これらのことを知り、行動して貰えば、知らない間にキャリアーになって、感染拡大をしてしまう事も無いようだ。
 受ける俺たちとしては、訪れる人がどこで何をしてきたか判らないので、素性の知れない人は極力農場に近づけないという防衛法しか無いのだろう。
 とりあえず、島外からウチに来る人は、靴と服を替えてもらおうかな?

 ずぅっと降っているわけでは無いのだが、時折激しく降り、短時間でずぶ濡れになった。
 雨が降り込んだ子牛部屋では、昨日地域興し協力隊の若い女性が、一生懸命敷きワラ交換してくれたのに、牛床が濡れてしまっていた。こういうところに、食べ残しの牧草を投げてやると、すかさずその上に寝るから可愛い。乾いた敷きワラが好きなんだ。北海道では、沢山敷いて毎日取り替えていたのだ。
 雨の中、小さな子牛が肩を落として立っていた。放牧しているのだから仕方ないが、体温を計るとたいてい熱がある。子牛の避難所を、可及的速やかに建てるしかないのだろう。
 小屋下放牧地からは、子連れでない牛は移動してもらっている。あとちょっとで、そのミッションは完了するが、小屋はどうしようかな?援軍を要請するか?とりあえず、材料をそろえておこう。

 瀬棚から連れてきたモトツボクミコは、あちらにいる頃から毎日の糞出しの度に、俺にちょっかいを出していた。俺の目の前に立ち、撫でてくれるまで退かない。でも、撫でていると仕事が終わらないのだ。
 硫黄島に来て、一度も敷きワラ交換に入らないので、クミコは不満そうだ。最近は、エサ入れの中を掃き掃除するとき、箒の邪魔をして俺を呼び止めるようになった。売らないから、良い母牛になってね!