異邦人

 昨夜見回りに行ったときは、何事もなかったのだが、今朝行ったら子牛が無事生まれていた。雄だ。何産目か判らないので、繁太郎かな。
 予定日を過ぎた牛は、あと一頭いる。さらに、次のお産グループが待っている。出来るだけ牛舎か牛舎下放牧地に連れ帰り、牛との関係を密にしたい。
 今現在、俺とここの牛との信頼関係は、全くなく、灯台下放牧地で、えさ用ドラム缶にエサを入れて回っているとき、いつも身の危険を感じながらやっている。牛が、人を押しのけたり突き飛ばしても良いと思っているのだ。
 少なくとも瀬棚組(北海道組)には、そんな牛はいない。それは、少ない頭数で、より密接に付き合い育まれたもので、一朝一夕で出来ることではない。今の段階では、殺到する牛の中で、俺はここに居ると、声をあげて存在をアピールするくらいだ。
 今日は、大浦放牧地の黄色の38番とその息子を、小屋下に移動させる予定だった。追い込み柵にエサを持って誘ったが、いつものエサ場から動こうとしない。仕方なく、子牛の首にロープをかけて、モクシを着けた。だが、子牛が大きくなりすぎていて、簡単には引っ張れない。
 親牛には充分警戒していたのだが、突進してきて子牛ごと俺を蹂躙してくれた。何とか運搬トレーラーに乗せたが・・・。
 北海道でも、放牧地で産まれた子牛を、俺が担いで牛舎に連れ帰ることがあったが、畜主として信頼されていたので、親は大人しく後を着いてきた。
 引っ越ししてきて一ヶ月の俺は、ここの牛にしてみれば異邦人だ。用心しなければならないが、だからと言って接触を持たなければ、いつまでたっても部外者のままだ。いろいろ触ろう!
 いつも話をする漁師さんが、焦るなと言っていたが・・・