生死の分かれ目

 朝、港で用事を済ませてから、牧場に行った。
 牛舎には、子牛や肥育牛の他に、出産予定日近くなった牛も入れてある。放牧地で産ませるより目が行き届きやすく、事故が減らせると思い、連れ帰ったのだ。
 今朝、一つの部屋で子牛が跳ねていた。無事生まれたのだ。名前は、『みどり』にしよう。
 隣の部屋を見ると・・・親牛の足下に、不自然な姿勢の子牛が倒れていた。明らかに、息をしていない。体は、母牛によって綺麗に舐められていた。ものすごく大きな雌だった。難産だったのだろう。救えなくて、ゴメン。
 去年だっただろうか?『子牛が死んだので、丁重に弔った』という友人の話しを聞き、掘り返して死亡報告をするように進言したのは・・・。死んだ牛を、勝手に葬ることは法律で禁じられていて、BSEの検査をした後、焼却される。
 なのにぃ、俺はなぜかスコップで大きな穴を掘り、子牛を埋めてしまったのであった。離島では、運賃がかかりすぎるので、特別扱いらしい。

 サツキが、ヨーグルトになりかけの牛乳のような便をしていた。おそらく、ロタウィルスだ。抗生物質が効かず、急激に脱水症状を起こしてしまう。だが、脱水症状を起こさせないように補液していると、数日で治る。
 ところが、どこを捜しても牛用ポカリスエット(サラーロン)が無い。北海道から持ってきたつもりだったが、捜したけれども見つからなかった。
 村の獣医さんに電話して相談した。すると、リンゲルを静脈注射し、マイシリンも筋肉注射するよう指示された・・・静脈注射・・・先日、近所の農家で、体験したばかりだ。
 サツキの母親は、かなり危険な牛で、捕まえようとして足が届く範囲に近づくと、たぶん蹴られる。鼻輪をつかんでロープで結ぼう等すると、頭や体で俺を壁に押しつけて潰そうとする。さっさと鼻輪だけをつかんで柵の外に逃げ、子牛を触っても攻撃しないように繋いだ。
 先日の子牛は、血管を指で感じることが出来た。だが、サツキはまだ小さく、血管を感じることが出来なかった。血管が通っているだいたいの場所は判るのだが、存在を感じられない血管に針を刺すのは難しかった。でも、経口補液が出来ないなら、血管に直接水分を送り込むしかないのだ。苦労して、500ccのリンゲル液を点滴した。これで、かなり安心。明日は、人用のポカリを買って飲ませよう!
 治療中、ときどき母牛の足が俺の頭の上を通った。おっかね〜!

 モトツボと、死産だった赤の11番を、大浦放牧地に引っ越しさせ、代わりに予定日になった牛を連れ帰った。
 気が強いモトは、一対一では善戦していたが、何頭もの牛に同時攻撃され、途中から逃げ回っていた。同郷のメロンも連れて来てやらないと可哀想だ。
 イタリアンライグラスの畑に、テッターを三回かけた。