墓掘り隊

 俺は、この島でずっと暮らすつもりなので、島の人たちの行事には出来るだけ関わっていきたいと思っている。
 極早朝も牛舎に行き、難産していないか見たが、黄色の12番は普通に寝ていた。いつも通り、朝食後港に散歩に行ったら、本日墓掘りがあることを知らされた。
 この島には、火葬場が無く、今でも土葬だ。何十年か経った墓を掘り、遺骨を壷に収めるらしい。
 仕事は沢山あるのだが、何とかなりそうだったので、スコップを持って参戦したら、マイスコップはNGだった。御神酒で体を清め、用意されたスコップで穴を掘った。穴は4つ掘り始められており、一つは既に1m以上の深さに達していた。俺は、隣の穴を掘る。一度掘られた地面は、柔らかくて掘りやすかった。だが、掘っても掘っても何もない。いつの間にか、160cmほどの深さに達した。こんなに深く埋める物だろうか?掘り出した土の処理にも困った。
 始めに掘り始めた穴から、遺骨が出始めた。毛布に包まれた棺桶の中から、土に戻りかけた骨が出てきた。遺骨が出始めたら、遺族の方が穴に入り、丁寧にお骨を拾う。

 俺たちが掘った穴は、深さに対して狭すぎたので、拡張しながら掘り進めた。150cmを超えたあたりから、バケツを下ろしてもらわないと、土を外に出せなくなった。交代して、さらに掘り進む。
 棺桶にも、横に寝るタイプと、座った状態で入れる縦棺があり、俺が担当している穴は、約50年前に埋葬された縦棺らしい。それにしても出ない!場所が違うのではないかと疑ったが、土の軟らかさは、明らかに一度掘った物だ。
 やがて、遺骨が出始めた。原形を留めぬほど風化し、とてももろくなっていた。大腿骨はあったが、頭蓋骨は発見できなかった。土に帰って苦段階で、座った形が崩れ、意外なところに移動するらしい。
 隣の穴は、50cmほどで遺骨が出始めた。昔の穴ほど、深く掘ってあるそうだ。それにしても、差がありすぎ(^^;;;

 俺は、自分の仕事があるので、途中で退散させていただいた。皆さんから、驚くほど丁寧に感謝のことばを頂き、恐縮してしまった。
 乾かしてあった牧草に、テッターをかけてひっくり返し、港にドラム缶を取りに行く。注文してあったガソリンと軽油が届いたのだ。ユニックで吊り上げ、牧場に持ち帰る。
 レーキをかけ、ロールした。先日使っているので、性能が判っていて使いやすかった。作業速度を速くしたが、どんどん牧草を吸い込み、丸めていった。
 6個半のロールが出来た。
 こちらの気候では、丸めたロールはすぐに倉庫にしまうか、ラップしないと夜露や雨で黴びてしまうということだった。そういうことは、実際に経験してみないと、どの程度の物か判らない。全部を回収しないで、1ロールくらいは雨に当て、どの程度の被害が出るのか確かめてみようと思う。多生黴が発生しても、北海道から連れてきた牛達は、気にせず食べてくれるだろう。
 ロールを終えたところで、黄色の12番が破水した。しばらく様子を見たあと、肥育牛の枠場に繋ぎ、助産した。北海道から持参した産科チェーンが見つからず、ロープで即席で作り、引っ張り出した。
 大きな雌だった。逆さ釣りして羊水を吐かす。名前は『さつき』。なかなか母乳を飲めそうになかったので、人口初乳に生菌製剤を入れて飲ませた。母牛を繋がなかったので、飲ませながら身の危険を感じた。

 墓掘りを手伝ったことで、その打ち上げに呼ばれることになった。4つのお墓を統合し、1つになっていた。
 約束の時間は、俺が牛舎を終えることのできる時間に遅らせてもらったようだ。急いで汗を流したら、家の前までご主人が迎えに来てくださった。案内されるままに家に上がると、精進料理と思っていた俺の予想は大きく外れ、島で穫れた山海の珍味だった。大王竹のタケノコの天ぷら。ハマボウフウを春巻きの皮で巻いて揚げたもの。カンパチ、ウスバハギ、カツオの刺身。バラハタのタタキ。アナゴ(トコブシ)の刺身と茹でた物。塩茹でしたカメノテ。巻き寿司といなり寿司・・・。自分で飯を作らなくても良かっただけでなく、島のご馳走が勢揃いしていたのだ。食いしん坊の俺は、何の遠慮もなく、食う食う!飲む飲む!
「これで、Yoneちゃんは、島の墓掘り隊決定だな!」
こんなご馳走にありつけるなら、何時でも掘ります!