発情日和


 満足している牛は鳴かない。
 昔、何かの本で読んだ事だ。今朝の牛舎は、とても騒々しかった。離乳したばかりの子牛たちが、大声で騒いでいた。その声を聞いた親たちが、飛行場の向こうから声をかけていた。馬と一緒に入れてある北海道組の牛達は、放牧地に草がないので吠えていた。
 でも、何かちょっと違う雰囲気を持った声がしたので、小屋横の放牧地に行ってみたら、メロン(平茂勝)が発情していた。小屋下の放牧地牛にも、発情している牛がいた。赤の16番。ついでに、飛行場を挟んだ先の黒島崎放牧地でも、発情している牛がいた。青の18番。
 俺は、○○の何番って名前を覚えられないので、替わりに地域興し協力隊員が覚えてくれた。アホな俺は、ペンを持って歩くべきだな。

 今日は生協の日だった。一日遅れでやって来た船が着くと、奥様方は下ろされたコンテナに集まり、生協からの段ボールを受け取る。そして、事務所裏の空き地で、すみやかにおのおのの注文した品物に分別され、あっという間に帰って行く。その素早さに俺は、あっけに取られて見ているだけなのだ。
 荷物を受け取って、その素早さの理由がわかった。冷凍食品もあるので、急がないと溶けてしまうのだ。

 その船には、俺が注文した肥料と飼料も乗っていた。コンテナの中にある肥料袋を、一つずつ軽トラの荷台に積み込み、牧場まで運んだ。でも、今日は三往復しか出来ず、あと400kgの肥料と、飼料が残ってしまった。

 さて、牛が発情したら、種付けである。
 種付けをするためには、広大な放牧地に散らばった牛から、発情牛を捕まえなければならない。捕まえ方は、竹の先に輪にしたロープを着け、それを牛の首に引っかけるのだ。追い込み柵の中に牛を追い込み、それから捕まえる方が、失敗がない。
 受精師の資格を持った方から、器具の準備やら、種の溶かし方やら、膣鏡と鉗子を使った種付け方法を学んだ。
 それぞれ、枠場に繋ぐのだが、巨牛のメロンは普通の枠場に入りきらず、肥育牛の枠場で種付けをした。しかも、深すぎて鉗子が届かない。一筋縄ではいかないのだ。『金幸』を着けた。