到着した

 四時半に起きると思っていたのだが、目が覚めたら明かりはつけっぱなし、パソコンは枕の上に置きっぱなしだった。パソコンの時計は、四時。年をとると、目覚めが良くなるのだろうか?
 真っ暗なのだが、動き出す。庭に放しっぱなしになっていたゴロウとカイトは、玄関の前に座って、俺が出てくるのを待っていた。車を用水路の所に移動させ、ローズに水を飲ませる。
 お茶を一杯飲んで、出発。八代から先の高速は、トンネルだらけだった。子供の頃、人吉市はとてつもなく山深くて遠い町だったのだが、アレッて思う間に通り過ぎてしまった。
 湿度が高く、山の木々の間から、靄が立ち上っていた。その白いものは、そのまま上がって雲につながる。幻想的な景色だ。
 鹿児島市に入り、昨日別れた運転手さんから電話があった。港で待っているって・・・。
 飯がまだだったが、何となく先を急ぎ、コンビニにも寄らずに港に行った。
 牛も馬もトラクターも、俺を待っていた。作業服が乾かなかったので、汚したくないGパンで作業し、すごく汚してしまった。トラックから家畜運搬用コンテナに牛馬を移し替えるのだが、四日も繋がれっぱなしなので、皆げっそりしており、苛立っていた。引っ張っていってつなぎ替えていると、スズコは俺を壁に強く押しつけ、腰に着けていたデジタルカメラの液晶を割ってくれた。特別保証品だったので、交換してくれるはずだが、保証書がどこにあるか分からない。お気に入りのカメラだったので、とても悲しい。
 島に渡る前に、買い物をしようと思っていたが、新聞の取材やら、いろいろな人と挨拶したり・・・、出稿の時刻になってしまった。とりあえず、弁当だけは二食分買うことが出来、一食は朝飯分だ。
 出航する船の屋上に上り、朝飯を食おうとしたら、視線を感じた。ご夫婦がベンチに座っておられ、奥さんがおれに笑顔を投げかけてくれていた。???俺がいい男だから???と思ったのだが、牛を積み込んでいるのを見て、興味を持たれただけだった。
 いろいろ話が弾み、船が湾を出るまで、ずっと話しっぱなしだったのだ。
 湾を出ると、波が荒くなったので、雑魚寝の二等客室に戻り、寝に入る。船酔いを防ぐには、眠ってしまうのが一番良い。風がどんどん強くなり、白波が立っていた。押さえていないと、帽子が飛んでしまう。
 隣の島に着いた頃には、雨まで降り始めた。到着してしまうと、飯を食えなくなるので、揺れる船の中で弁当を食べた。
 到着した。引っ越し屋さんには、俺は立ち会えないので、適当に部屋に入れてくれるよう頼んだ。
 俺は、トラクターとハイラックスを、船から降ろした。黒豚ローズを見に、多くの人が集まった。ほとんどが若い女性だったような気がする。
 荷物を降ろし終えると、ハイラックスを高台にある牧場に走らせ、ローズを降ろそうと努力した。だが、長旅で疲れているローズは、動きたくなさそうだった。
 すぐに降ろすのを断念し、家畜運搬用トレーラーを2WDのフォードで牽引し、港に戻る。初めて使う機械は、操作レーバーなどがどこにあるのか判らず、苦労するものなのだが、使ってみるととても使いやすいトラクターだった。
 二頭ずつ六往復した。ソックスは、子牛と一緒にトレーラーに乗せた。はじめは興奮していたソックスだが、ちょっと時間をかけて接すると、顔を俺の胸に着けて、信頼の気持ちを表してくれ、嬉しかった。
 ポパイは、大きすぎてトレーラーには乗らないので、俺が乗って牧場に連れ帰った。
 牛も馬も、長旅で疲れており、いきなり不慣れな放牧地に出すのは、リスクが大きすぎた。牛舎のいくつかの部屋に分けて入れ、しばらく様子を見ることにした。
 暗くなってきたので、水を飲ませただけで、ローズを降ろすのは今日は止めた。