さようなら、瀬棚!

 旅立ちの朝なのだが、不安要素が沢山あるため、俺はプレッシャーを感じていた。
 とりあえず、モトツボクミコ(平茂勝←北国7の8←安福165の9)に水と餌をやり、トラクターに取り付けたブロードキャスターの中に、牛舎関係の用具や工具を積み込み、シートをかけた。
 終わったところで、トラクターを輸送するトラックが来た。
 あおりが着いた大型車だったので、空いているスペースに、材木を積んでもらった。これに意外に時間がかかった。頑張れば、もっといろいろ積み込めたのだが、後に重大な仕事が控えていたので、ある程度で止めてもらった。
 ローズの積み込みである。師匠の息子さんも、牛の師匠夫妻も、見送りに来てくれた。立ってる者は、親でも仕えという師匠の言葉に従い、ローズの積み込みを手伝ってもらう。
 餌で誘って、荷台に乗ったところで、横棒を入れようとしたのだが、気づかれてしまい、強烈な体当たりで突破されてしまった。失敗すると、豚は記憶して警戒するのだ。ちょっと時間をおいて、2回目のチャレンジ。山羊のジョンを一緒に積むことが、そもそも無理だった。再び突破されてしまった。
 ちょっと作戦を練って、またチャレンジしたが、三度突破された。
 家畜運搬車が来たので、一旦ローズを休憩させた。
 俺は、今日が土曜日だということを忘れていて、アヤとモモカの為のもくしを買っていなかった。牛の師匠がさっと作ってくださった。さすがである。
 親牛たちは、メロンがちょっと苦労したが、後は素直に乗ってくれた。詰め気味に乗ってもらい、馬のためにスペースを広くとった。
 乗せている最中に、手伝ってくれている女性が、『この牛は積めないから置いていこう!』としきりに言っていて、楽しかった。俺のブログを隅々まで読んで覚えておられ、それぞれの牛に関するエピソードも、全部把握しておられ、感心した。 
 ポパイは、当然だがすぐに近寄ってきて、馬つなぎ場に繋がれた。ソックスは、まだちょっと警戒心が取れていなく、ちょっと手こずったが、何とか捕まえた。だが、引かれている状態だと,U字溝の網蓋でさえ超えるのを嫌がった。ましてや、荷台に乗るための急なスロープなんて・・・。
 苦労したが、何とか乗せることが出来た。牛と肩を並べて乗ったポパイだが、とても落ち着いている。だから、ソックスもすぐに落ち着き、おとなしく乗っていた。頼れる馬なんだ。ポパイは・・・。
 ジョンを、急遽家畜運搬車の、モトツボクミコの仕切りに入れることにした。
 問題のローズである。
 時間をおいたことで、落ち着きを取り戻していた。こちらも、万全の体制を整え、最後の挑戦だ。牛の餌を持って時間をかけじっくり誘い込む。すっかり落ち着いて、奥まで入って餌を夢中で食べ始めたところで、師匠たちがゲートを閉めてくれた。成功だ。俺は、まだ張っていない天井から出た。
 コンパネで屋根を着け、ロープで補強してもらった。
 今度は、農業用猫だ。いつもと違う気配を察知し、ライカ一家は雲隠れしてしまった。ゴン太だけを、ゲージに入れた。
 牛馬に水と牧草をやっている間に、ライカが帰ってきた。捕まえて、車の屋根に取り付けたゲージに入れようとしたところ、爪をむき出して大暴れし、俺の手とのどに爪痕を残して逃げていった。俺がここを去ると、餌をくれる人が居なくなるので、何とか連れて行こうと思ったが、これではどうしようもない。
 時間はたっぷりあるはずなのだが、朝から何も食べていない俺は、気持ちにゆとりがなかった。師匠の息子さんが自宅の方で整理してくれていたのに、あまりに沢山の荷物と動物に押しつぶされた俺は、200mバックしてお別れの言葉を言うことが出来なかった。あんなに良くしてくれたのに・・・。
 牛の師匠夫妻に別れを告げ、約9年間格闘し、もがき続けた牧場をあとにした。お世話になった機械屋さんに寄り、借りていた工具を返した。機械屋さんは、ローズやゴロウ、カイトに別れの挨拶をしてくれた。
 皆さん、お世話になりました。
 
 市場に牛を売りに行くとき、必ず立ち寄るラーメン屋さんに寄り、運転手さんと特製浜チャンポンの大盛りを食べた。あとは、小樽に向かって走るのだ。我が牧場選抜牛12頭と馬2頭を乗せた、大型の家畜運搬車の後ろを走る。
 荷台は黒豚ローズに占領されているので、ゴロウとカイトは助手席だ。カイトが座席に座り、大きなゴロウは足下に座ったが、窮屈そうだ。時々声をかけながら、走る。ローズは、荷台で寝たり、餌を食べたり、意外に落ち着いている。寝返りを打つと、車が揺れる。

 岩内のホーマックで、犬のリードロープと、ローズに水を飲ませるための洗面器を買った。犬たちのトイレ休憩も兼ねる。
 ハイラックスの荷台に、黒豚が乗っていることなんて、たぶん滅多に見ないだろう。牛と馬が一緒に乗ったトラックも、少ないと思う。目ざとい女の子たちが、車に集まってきた。みんな、動物が好きなんだね。
 久しぶりに、小樽に来た。さっさと乗船手続きを済ませた。ゴロウとカイトは、ゲージを頼んであった。俺は幸運にも、ベッド付きのドライバーズルームに入ることが出来た。駐車場係のおじさんたちも、ローズを見に集まってきた。愛想のないローズは、ブィッ!と寝転がった。
 乗船前の時間を使って、食料とビールを買い込む。待合室で、ブログを書いたりするのだ。携帯電話での入力が苦手な俺は、持ち運べるパソコンでネットが出来るのが、とてもありがたいのだ。
 船は、とても大きく、立派だ。まるで、ホテルのようである。大浴場で体を洗い、暖かなベッドルームで、ブログの続きを書いているのであった。今日は、長い一日だった。