最後の出荷

 最後の出荷だった。薄暗いうちに牛舎に行き、エサを与えた。何となく、大子牛部屋の連中だけのような錯覚を受けるが、モトツボクミコ(平茂勝←北国7の8←安福165の9)以外のすべての子牛が出荷される。
 子牛のエサの後、放牧地のミツヒラシゲ(平茂勝←茂重波)を呼び戻した。算数苦手の俺だが、出荷予定より二頭少ない14頭のつもりだった。首鎖のミツとフク(賢深←北国7の8)には、モクシを着けた。付き合いの長いフクは、穏やかな顔をしてされるがままになっていた。出産のタイミングにより、種付けをすることが出来なかったのだが、彼女の年齢や血統を考えると、このまま肥育になってしまう可能性が高く、心が痛んだ。
 子牛は、出荷用のモクシに替えなければならない。10頭もいるので、大変だった。暴れるし・・・。
 大型トラック2台が来て、牛を積み込んだ。付き合いが長いので、親牛達は俺が引くと大人しいのだが、他の人が引くと抵抗していたようだった。本当は、一頭一頭お礼を良いながら、俺が積み込みたかったが、時間が無かった。しかも、途中から13頭しか居ないって話になり、大いに焦った。また、間違えて出荷する牛を放牧に出したかと思った。でも、農協職員の数え間違いだった。あの人も、算数が苦手らしい。
 トラックに積み込んだ親牛達は、網越しに俺を見て鳴いていた。
 感傷に浸っている場合ではなく、猛烈荷造りの一日だったのだ。先に要らない物を選別しておいたので、詰め込みは割りと早かった。でもねぇ〜、部屋と地下室と牛舎の荷物をまとめることはできなかったさぁ〜。
 共済に行き、窒素ボンベに俺所有の精液や受精卵を移し替えて貰った。助手席に積んで持ち帰ったが、間違って転がしたら、莫大な損失となるのだ。引っ越し屋さんに頼んで大丈夫なのかなぁ?
 今日も、つまみとお酒を持って、お別れに来てくれた人がいた。いろいろ懐かしい話が出来、きっと大丈夫だから、頑張れよと言ってもらえた。どうぞ、お元気で・・・。