悲しい事件

 心配が、現実のものになってしまったのだ。
 最近の俺は、農場整理と引っ越し準備のため、忙しくて心のゆとりが亡くなっている。疲れているので寝付きは良いのだが、4時前には目が覚めてしまう。自分が今置かれている状況に、とても緊張しているのだ。
 いつも失敗しないように気をつけているのだが、ミルクやエサを調合しても、間違った部屋に持っていったり・・・ミスばかりしていた。心ここにあらず・・・生き物を飼う人間は、絶対になってはいけない状態だ。

 ここを出るという話になってから、来客も電話もすごく多くなった。携帯で話しているとき、家の電話が掛かってくることも珍しくない。あれは俺にとっては慣れない状況で、実に焦る。ましてや、話が込み入ったことだと、パニックになってしまいそうだ(^o^;)
 それでも、機械を見に来て買ってくれる人は、とてもあり難い人だ。今朝来た人も、部品取りのジョンディアロールベーラーや修理しないと使えないディスクモアを、引き取ってくれることになった。
 買った機械を取りに来た人もいた。いちいち、機械の癖や特徴を説明した。
 子牛たちも、ダイメトン散というコクシジュームの薬を飲ませ、買われていった先で迷惑をかけないようにした。トクフク(ガンベ)が出来ている子牛には、ガンベトールを塗り続けている。

 運送屋さんと立ち話をしているとき、ゴロウの口周りに血がついているのに気がついた。でも、調べてみたのに怪我は見あたらなかったので、不審に思っていた。
 来客の合間に、放牧地に牧草を運んだ。M7950で、堅く巻いたラップサイレージを運ぶのは、とても荷が重い。
 苦労して運んでいるとき、変な格好をして寝ている牛が見えた。行って確認するまでもなく、息が絶えていた。サイレージを希望した位置に運ぶのは断念し、空荷のトラクターで現場に行ってみた。カラスが突いていて、人相が変わっていた。耳票を確認し、我が目を疑った。
 9525・・・ツボミだ(安平照←北国7の8←安福165の9)。百合茂を受胎していたのに・・・。彼女は、モトツボの娘で、俺がミルクで育てた牛だ。我が家では、もっとも期待されていた母牛の一人だ。寄りによって、なぜ彼女が・・・。言ってはいけないが、他の牛だったら良かったのにと、本気で思った・・・なぜ、ツボミが・・・。
 二グループに別けていた牛を、先日の検査のために合流させた。久しぶりに会った牛は、一部でケンカを始めたのだが、いつものことなので気にしていなかった。おそらく、複数の牛が激しくぶつかったとき、運悪く首でも折ったのだろう。
 牛を少しでも減らしたいから、売買の決まった乳飲み子等はすぐにでも引き取って欲しいとか、去勢前の子牛は運搬の負担が可哀想だから、町内で欲しい人に売りたいとか言っていたのは、事故が怖かったからだ。そして、最悪の形で事故が起こってしまった。