帰郷

 眠れないのに布団の中にいるのは、けっこう退屈なのだ。泥棒に間違えられそうだが、民宿を抜け出して散歩に出かけた。と言っても、狭い集落なのですぐに端から端まで歩けてしまう。
 港に行ったり、堤防に行ったり・・・人が歩いている!早速追跡し(ストーカーか!)、追いついたところで声をかけた。防波堤に釣りに行くところだ。ロウニンアジの子供を、ルアーで狙っているらしい。邪魔にならない位置に立ち、いろいろ話し込む。残念ながら、俺が話をしている間には釣れなかったが、けっこう楽しい会話だった。

 明るくなってきたので、さらに探索して歩く。家庭菜園には、カラスや野生のクジャクから作物を守るために、網が張ってあった。これが無いと、みんな食べられたり掘り起こされてしまうらしい。漁から帰った漁船がいたので、早速襲撃(^O^)/ 網にはゾウリエビというセミエビの仲間がかかっていた。食べると美味しいらしい。他に、シマアジメジナ、オジサン、イスズミなどがかかっていた。
 釣り人にはあまり人気がないのに、伊豆諸島で珍重されるイスズミは、ここでもそれなりのいい評価だった。内蔵を傷つけなければ、身に匂いが移らず、食べるところが多い魚だと言っていた。民宿との兼業漁師だが、捕った魚は市場には出していないらしい。
「今日のお客さんは、ラッキーですね。」
と言ったら、お客はいないらしい。基本的に、ストッカーに入ったり、友人や古くからのお客さんに分けてやるそうだ。
「アンタも、今度島に来たらウチに泊まりな。イスズミを食べさせてやるよ!」
と言われた。

 宿をチェックアウトし、歩いて牧場に行った。海岸から約100mの高さまで登った高台に、平坦な土地が広がっている。牧場はそこにあるのだ。縁は絶壁となっていて、ロッククライミングが出来そうだ。牧場に向かう道の脇には、ツバキが沢山植えてあった。ツバキ油を採るためだ。
 牧場では、牛達が鳴いていた。クジャクが我が物顔で牛舎を歩き、エサが残っていたら食べてしまうそうだ。これは害鳥だね。エサに切り草を混ぜ込むと、食べるのに時間がかかり、クジャクの番をしなければならないので、エサをやった後に切り草を入れてやるそうだ。
 港まで、緊急避難用の急な坂道を歩いて帰った。急な道だが、たった5分で集落に着いた。
 船に乗り込む。海は穏やかで、人と話し込んでいるうちに、港に着いてしまった。

 この後、牧場の息子さんの誘いで息子さんの彼女も一緒に、黒豚しゃぶしゃぶを食べに行った。
 息子さんもそうなのだが、彼女も育ちの良さそうな品のある可愛い人だった。食べる間、パッパッと気を使ってくれていた。
 九州の男は、亭主関白と思われているが、実は奥さんに頭が上がらない。それは、奥さんが身の回りの世話をすべてやってくれるため、旦那は一人では生きていけなくなるからなのだ。その片鱗を見たような機がした(^^ゞ
 ここのしゃぶしゃぶは、お湯ではなくそば湯を使う。全国の牛飼い様に申し訳ないが、この黒豚はとろけるような食感で、ものすごく旨かった。二人とも聞き上手で、すっかり上機嫌になってしまった俺なのだが、次の目的地に行かねばならなかった。

 なごり惜しかったが、新幹線に乗り込んだ。そして、その速さに驚いてしまった。車で一時間以上かかっていた距離が、10分ちょっとで着いてしまうのだ。その昔、何時間もかけて行っていた場所から、各駅停車なのに40分ほどでもう自宅だ。
 しばらくぶりの故郷は、大きな町に姿を変えていた。って歌があったなぁ。十数年ぶりの故郷だ。家も建て替えられており、豪邸になっていた。
 しゃぶしゃぶを食べた直後だったが、ご馳走が俺を待っていた。ローストチキン、タチウオの刺身、ハマグリたっぷりの吸い物・・・。

 写真を沢山撮ったのに、パソコンにコピーするのに失敗し、消してしまった(T_T)/~~~