yonemiki2010-02-10

 俺は、なかなか見捨てられない。その中途半端な優しさが、事態を長引かせて、事を重大にしてしまう。
 生後一週間のキサラギは、ストマックチューブ無しには今まで生きられなかっただろう。世話をして元気になるのなら、そんな世話も苦ではない。だが、目が見えないキサラギが、一人前に育つのは難しいと思う。
 昨夜、哺乳瓶で3/4のミルクを飲んだのでちょっと期待したのだが、今朝は飲んでくれなかった。欲しそうな素振りをして、俺を追ってくるのに、乳首を口に咥えさせても、ちょっとしか吸わない。30分で挫けて、ストマックチューブを使った。
 キサラギの父親は種牛候補牛で、その能力を調べるために受精協力をした。大きくなったら、市場ではなく引き取られることになっていたのだが、もしかしたら盲目では引き取ってもらえないかもしれない。一応、調べてもらうことにした。
 また真冬日になり、道路も放牧地も氷結した。家から牛舎までの坂道は、歩くのさえ危険だ。踏み固められ、溶けた後に凍った放牧地の氷盤で、牛が踊っていた。
 夜牛舎で、またキサラギは哺乳瓶を受け付けなかったので、一食抜くことにした。いつまでも、ストマックチューブを使っていられない。腹が減り、生きる力があったら、自力でミルクを飲むだろう。