命 泥の季節

 命は、時にしぶとく、時に儚い。
 ゴンタが、小鳥を食べていた。農業用猫は、牛舎にネズミや鳥が住み着くのを防ぐために飼っている。小鳥を捕るのは、彼の仕事だ。
 視線をずらすと、子牛が寝ている側らに、黒い物が落ちていた。それは、ルビーの亡骸だった。
 冷え込んだとき、小さな猫は子牛の体を利用して暖をとる。普通は、背中に乗るのだが、亡骸の状態から察するに、添い寝して押しつぶされたようだ。不運としか言いようがない。昨夜まで、元気で可愛い姿を見せていたのに・・・。

 昨夜、牛舎に帰ってこなかったミツヒラシゲが、群から離れた斜面で叫んでいた。まさか早産ではないかと心配で、飯を後まわしにして見に行った。
 でも、腹は大きいし、陰部も出産した形跡が見られない。ただ、妊娠牛の群に帰りたくて、叫んでいたようだった。紛らわしい!
 ついでなので、柵を点検した。一カ所、無理矢理通ってケーブルが下がっている場所があった。補修したのだが、こゆきは既に妊娠牛放牧地に行った後のようだった。

 せっかく地面が乾き始めたので、角馬場作りの続きを、ちょっとだけやった。
 地表に顔を覗かせていた木を取ろうとしたら、木くずと笹の根のかたまりが、大量に出てきた。こういうところは、踏んでも固まらないので、掘り起こして、新たに土を運んで穴を埋めることにした。
 思ったより広範囲に埋まっており、掘り進んでいるうちに、雲行きが怪しくなったと思ったら、激しい雷雨になった。あられまで降ってきた。掘った穴に、水が溜まっていく・・・。
 天気予報を見ても、晴が二日と続かない。これでは、馬場作りも、堆肥撒きも、ちょっと無理だ。
 あぁ、泥の季節。