負傷

 ローズは、俺の足音を聞いて、出勤してきた。
 牛舎には、ナミコが押し入っていた。柵を突破される度に、脆弱な我が家の柵をなんとかしなければと思うのだが、資金が足りないので忘れてしまうことにしている。制限哺乳を始めたばかりなので、予想できたことだが・・・。哺乳させた後、電牧調教してから外に出す。
 妊娠牛が、腹減ったといっていたので、刈り遅れの一番草を持って行った。牧草を運ぶトラクターの後ろを、ローズはトコトコ着いてきた。牧草を入れ終わって帰るとき、名前を呼んだらトコトコとトラクターについて帰ってきた。犬みたいな黒豚だ。
 今日も、ガンベ治療をした。間を置かずに一気に治療しないと、復活してしまうのだ。

 一旦帰ろうと思ったら、またナミコが脱走していた。困ったことに、逃げ回る。深雪の中に追い込み、モクシをつかむ。ところが、なかなか引っ張れない。ロープを持ってくるべきだった。
 モクシと尻尾をつかんで、押したり引いたりしながら連れ帰ろうとした。ところが、突然きびすを返して走り始めた。手を離せばいいのに、つかんだままだったのだ。450kgほどある牛の前足で、太ももを3回も踏まれてしまった。焼け火箸を刺したような痛さと言えば、想像つくだろうか?
 自業自得である。制限哺乳の子牛たちを追うのに、苦労した。
 せっかく、すきしゃぶで元気が出たのに、全くアホな話だと言いつつ、牛すじの残り半分を冷蔵庫に移す俺であった。