傷だらけの手 冒険家の魂

 生後約45日目のカリンと福五郎は、この1週間、配合飼料を1日1kgコンスタントに食べるようになった。減乳開始を開始し、さらなる食い込みを促す。
 コンスタントに食べると言っても、自発的に全部食べているわけではない。エサ箱に残っているエサは、手で食べさせているのだ。無理矢理押し込むのではなく、哺乳瓶でミルクを吸った勢いで、手に吸い付いてくるので、エサを握って入れてやっている。牛の歯は下あごにしかないのだが、子牛のは鋭く、手は傷だらけだ。しかし、自発的に食べさせている牛に比べて、食べさせた方が明らかに幅が出るので、やれる範囲でやっている。
 産まれてから4ヶ月くらいまでは、出来るだけ配合飼料を食い込ませて、ルーメンという突起物を作らせるのだ。エサ代が高騰しており、経営を圧迫しているが、良い牛を作るためにやれることをやるしかない。

 子どももそうだが、子牛は危険なものや汚いものが大好きだ。パドック脇に、汚い水路がある。子牛たちは、この水を苦労してわざわざ飲むのだ。
 下痢の原因になるので、柵の下に電気牧柵のケーブルを張ってしまった。好奇心が強い子牛たちは、新たに張られたケーブルを、張っている側から早速噛んで引っ張っていた。完成してスイッチを入れたときの騒動はすごかった。
 騒然としながらも、全員が順番に当たっていた。冒険家でもあるのだ!
 
 ヤナギの綿毛が、風でフワフワ飛んでいた。