去勢 和牛精液情報勉強会 愛しのポパイ

 冬支度が終わらないのに(終わりそうにないのに)、年末はいろいろ行事があって忙しい。朝から、税の説明会があったらしいが、知ったのは夜になってからだ。とりあえず、和牛の勉強会に行くために、午前中にできる仕事をする。

 昨日に引き続き、カナマイシンの注射をした。サンプル測定した子牛の熱は下がっていたが、エサの食いはあまり良くなかったように感じた。ところがこいつらときたら、俺の顔を見てから食べ始めるので、さっさと作業できなくて困る。

 果穂次郎の去勢手術をした。牛も綺麗で、とても衛生的に手術が出来、術後エサも食べていた。雄の肉は筋肉質(赤身)になってしまうので、去勢することでホルモンバランスを女性ホルモン側に移行させ、柔らかい霜降りにするのだ。
 
 勉強会に行った。精液事情はいろいろ変わってきているそうだ。これからは、情報収集して種付けをしないと、経営状態変らしい。
 繁殖農家が種付けをして、妊娠し子牛が生まれて販売できるまでに約20ヶ月かかる。肥育農家が肥育してその結果が出るのに更に20ヶ月だ。40ヶ月先の市場動向を見据えて種付けするなんて、一種のギャンブルに近い。人気のあった種雄牛が、廃れてしまうことだってある。とりあえず、俺たちが担当している前半20ヶ月分の先読みをするくらいは勉強しなければならないのだ。
 
 冷え込むというので、肺炎を患ったことのあるポパイに、馬着を着せに行く。呼んだらすぐに来た。大きめの馬着と聞いていたのに、なんか小さいような気がした。
 着せた後、仕事に行くつもりだった。しかし、ちょうどアブトラップ2号の脇にポパイが立っており、つい出来心で背中に乗ってしまった。ハミ無し鞍無しあぶみ無しだ。つかまるところはたてがみしかない。
 脚で合図してゆっくり歩かせる。言っておくが、天国に一番近い我が牧場でも、馬の放牧地は最も傾斜がきつい。この斜面を、裸馬同然のポパイに乗って歩いた。脚の合図が上手く伝わらず、走られたりしながら結局北山採草地までいってしまった。ここまできたら、駆け足しかない。他の馬たちもその気になって着いて来た。
 頭を下げての全力疾走である。競馬上がりのブランカなら時速60kmくらいは出て、目を開けていられなくなるほどだが、ポパイはおそらく時速50km以下なので、涙がチョチョ切れる位ですんだ。鞍が無くても結構乗っていられるものだ。
 適当なところで止めて、ゆっくり家の方に帰ろうと思ったのだが、再び全力疾走。普段の乗馬で、いかにハミやあぶみに頼っているかよくわかる。思い通りに指示を出せなかったことを反省した。
 裸馬に乗るのは初めてだが、ハミのブレーキが無いのと、脚の合図を出しにくい。ポパイにとっても初めての経験だったので、興奮したのもあると思う。それでも、下り坂の駆け足でバランスを崩した俺が、落ちないように気を使ってくれた。
 最後はゆっくり止めて、抱きついて喜んでいることを伝える。冷え切った手も温めてもらった。