アカリ種付け ツボミ妊娠 蜜四郎治療 運古を投げつけられる話

 蜜四郎は、昨夜より熱が上がって41度。グッタリしてミルクも飲めない。ノゾミは、初めての哺乳瓶に戸惑いながらも、2リットルのミルクを飲み干した。あれやこれやで時間ばかりがかかり、仕事がはかどらない。
 アカリが発情していたので、蜜四郎の診察、ツボミとモモエの妊娠鑑定を一緒に、獣医さんに電話した。一度放した牛のうち、目的の牛だけを群から放して牛舎に追い込むのは、けっこう体力と技術がいるのだ!
 ゴロウに牧羊犬として訓練したら、けっこういけたと思う。
「ゴロウ!こっち。待て。よ〜し。」
などと、牛の群を追うのに、とても役立っていたのだが、カイトが来てからは以前のような牛追いの手伝いさえまともにできなくなった。(邪魔され、気が散るようだ)
 
 アカリはとても良い発情だった。「福栄」を付けた。ツボミは妊娠していた。出産予定日が、1ヶ月以上早くなり嬉しい。モモエも6割以上の確立で妊娠しているそうだ。本来発情している時期に、黄体があるのだから・・・。
 繁殖カレンダーを見るのが好きだ。これは俺の成績表でもある。和牛繁殖農家は、1年1産を目指して母牛を飼育する。毎年同じ時期に出産すれば、1年1産を実現していることになる。出産予定日が早くなるということは、1年1産以上ということになり、とても成績が良いことになる。もちろん、だんだん出産日が遅くなる牛もいる。たいていは、俺にあまりなついておらず、俺の目を避けてひっそり発情していたり、俺が調子が悪くて、観察していないときに起こる。いろいろ秘訣があるようだが、俺は親牛をスリムにするよう心がけている。
 
 蜜四郎は、先日まで抗生物質を打っていたので、今回別な種類の抗生物質を打ってもらった。ポジティブリストに載せるのだが、たいていは精肉にするのに2ヶ月以上間を置きなさいというものだ。肥育が終わるのは30ヶ月以上先だから、問題無い。
 
 アメリカでは、子牛が病気した場合、3日治療して治らなければ殺してしまうのだ。牛の単価が安く、採算が合わないからしょうがないそうだ。乳牛の場合、雄牛が生まれると、肥育しないで射殺する。
 日本の農家の肥育技術は素晴らしく、ホルスタインの雄でも(去勢)、それなりの美味しい国産牛として売られている。オールトラリアには、純血の黒毛和牛が沢山飼育されており、その精液でアンガスなどの肉牛と交配し、「交雑種」を生産する。10ヶ月くらいで日本に輸出し、10ヶ月以上日本で肥育すると、「日本産・交雑種」として売れ、肉質もそれなりにいいものができるそうだ。
 最近ようやく、黒毛和種の精液を、外国に輸出することに対し、制限(禁止?)されるようになったが、大切な国家財産を、商社などが安易に持ち出さないようにしないと、日本の良さが無くなってしまうと思う。
 
 夜牛舎で作業中、ミカンが入ろうとしていたスタンチョンに、モモコが入ってしまった。ミカンは神経質なので、モモコに移動してもらい、入れるようにしてあげたのに、ミカンは入ってくれない。モクシをつかんで引っぱろうとすると、大暴れをして、他の牛を驚かせ、
「来るな!」
という警告である空蹴りをされる。偶蹄類の牛は、ひづめの間に詰まった運古が飛んできて、俺の頭を直撃!頭に血が上り、空蹴りした牛に八つ当たりの蹴りを入れ(これをやると、牛との関係が悪くなり、後で苦労する)、ミカンは牛舎外に追い出してしまった。
 こんなことをやっていたので、時間がかかり、帰ってきたのは12時過ぎになってしまった。今度、ミカンの引き牛調教をしてやる!