地動説と村上医師

 現代の日本人で、「地球球体説」や「地動説」を理解しない人は居ないだろう。
 しかし、中世ヨーロッパの常識では、地球は平らで、「天動説」が信じられていた。コペルニクスガリレオが「地動説」を唱えた頃、神学者達はこれを拒絶し、激しく弾圧した。
 実はそれよりはるか昔、神学者による縛りが無かったギリシャ人の間では、地球が球形をしていることはすでに知られていた。地点によって北極星の見える角度が異なることなどからである。エラトステネスは紀元前200年頃には既に、地球の大きさまで測定していたという。
  
 村上医師は、日本一の老人高額医療費に苦しんでいた瀬棚町にやってきた。強い薬を沢山もらったり注射をしてもらうのが当たり前のこの土地で、薬を減らしたり、予防医療や健康講話などをすることで、1説によると約2億円の医療費を削減した(北檜山国保の元事務長大関氏は認めなかったそうだが・・・)。
 国の診療報酬改定や、後期研修医支援プログラム、医療と福祉の役割を分担し、その中間施設としての老人保健施設理学療法師・作業療法師の必要性、医師不足解消の鍵として後期研修生が集まる医療機関作り・・・。
 
 今なら、テレビ等でも特集され、多くの人が知っている事だ。しかし、1年前には俺も知らなかった事が多い。
 俺達はその恩恵を受けたので、話を聞けばすぐに理解できるし、取り戻したいと思って活動をしている。でも、恩恵を受けたことが無い人には、にわかに理解できないことだった。行政にも口うるさく言う村上医師を、疎ましく思う人も多かった。7年間かけて築き上げてきた診療所の体制を、わずか半年で壊された村上医師の無念さは、計り知れない。激しい文面の「意見書」を提出され、頭にきた町長の行動も、ある部分仕方なかったのかもしれない。
 
 だが、問題はこれからだ。多くの人が、村上医師がやってきたり、計画していたことが、実は先進的で、とても正しい方向性を持っていたことがわかったのだから、それに背を向け続けることは、馬鹿げている!
 先日医療対策審議会に提出されたせたな町の医療体制のあり方」に関する検討項目は、その多くの答えが、「意見書」の中に書かれている事だ。
 「公立病院経営」に関する日本一の研究者・伊関先生の分析でも、町長のやろうとしていた、「北檜山国保の病床数を減らさずに残す」ことが、せたな町の財政や、診療報酬改正がなされた現在は、到底無理なことを示している。 意地やプライドもあるだろう。しかし、素直に誤りを認め、正しいせたな町の生き残り作戦を立てることの方が、かっこいいと思う。伊関先生の分析や、追加分析には、どうすれば良いかのヒントがキチンと示されている。それを、医療対策審議会で取り上げないというのは、現実に背を向けているとしか言いようがない。
 
 なんて偉そうな事を言っているが、俺だってやらなければならないことを、山積みしたままということが良くある。
 ポパイの運動をさせることが出来ないので、北山採草地にマロンと一緒に放す。仔馬のジュリアも一緒に放したのに、いつの間にか、ビクターと入れ替わっていた。どうなってるんだ?
 
 新しい薬が効いてきたのか、ちょっと調子が良かったのと、月明かりが綺麗だったので、トラクターで牧草ロールを牛にやりに行った。やけに手がかじかむと思ったら、牛舎の温度計は4℃を指していた。
 東の空に、オリオン座が見えていた。