妻の熱 ローズの取材 健康講話 送別会

 妻の熱は、38℃から37度ちょっとまで下がったようなので、このまま休ませて様子を見ることにした。

 俺一人で朝牛舎を急ぐ。今日もテレビの取材の人が来て、ブタの散歩を是非撮りたいとの申し出だったので、喜んで引き受けた。
 えさ入れのバケツを持って道に出たら、ローズは
「ブイ!ブイ!」
と言いながら、俺のあとを着いてきた。カメラマンの方が、ローズのアップを撮ろうとすると、ちょっと緊張しているのがわかった。家まで着いて、残飯を出してやったのだが、雪に足が埋まってしまうのが怖くて、自家製納豆くらいしか食べていなかった。
「彼女も、だいぶ緊張しているようですね?」
局の方も言っていたが、ローズの可愛さが、ちゃんと撮れただろうか?ちなみに俺は、緊張でずっと引きつった顔をしていたと思う。
 牛が日差しを浴びて、のんびり寝ている風景や、乾燥を食べるところも撮影していたようだ。


村上先生最後の、健康講話が近所であったので、聞きに行った。集まったのは、近所の年上の女性ばかりだったので、「老健」についての話が主だった。
 ジャパニーズパラドクスと言って、喫煙率が高いのに、なぜか平均寿命が長いことを話され、理由として和食が体にいいと言っておられた。
 ところが、寿命を縮める食品のトップは大豆だそうだ(日本では大豆の9割以上は輸入大豆。ポストハーベストがたっぷりかかっている)。
 ポストハーベストのかからない国産大豆を食べたり、牛乳(我が家では毎日1㍑以上飲んでいるせいか、妻の骨密度は20歳くらい並みらしい)を飲んだり(みんな家や近所で作っているものだ)、1日5杯の緑茶を飲んで(カテキン《勝て菌》がいいらしい)、健康的な生活を送るといった話を、みんなメモして真剣に聞いていた。
「僕は緑茶でうがいして、そのまま飲み込んで、妻に怒られますが、どうなんですか?」
と言う俺のふざけた質問にも、
「それでも効果がありますよ!」
と優しく答えてくれた。
「みんな体を鍛えて、健康に歳をとりましょう!」
と言われて帰ってきた。テレビ局の方も来て、みんなに見送られて返っていく村上先生を撮っていた。


 大急ぎで農協で大金をおろし(車2台分の車検代)、診療所に行った。いつも村上医師にかかっていたので、吉岡医師に診てもらうのはほとんど始めてである。一生懸命症状を話し、ついでに半年後に辞表を出さないようにお願いした。こんな話まで、全部撮影された。吉岡医師は、熱心に話を聞いてくれ、この人を無くさないようにしなければならないと、決心した。


 敷きわら用の2番草を購入した。値段は品質を見て、後払いになった。
「いい先生が二人も辞めて、いたわしい(勿体ない)。お金(財政難)の問題ではないらしいよ!」
農家の人でも、ちゃんと考えている人がいるのは嬉しかった。


 急いで牛舎作業をやり、大好きだった獣医さんが二人も転勤していくので、送別会に参加した。もうすぐ子供が生まれる話をし、小児科医がもしかしたら半年後にいなくなってしまう現状を不安に思っていると言ったら、
「子牛の方がまだましだよね?24時間態勢で往診してもらえるのだから!子供が病気したら、八雲まで車を片道1時間も飛ばしていくか、2週に1回小児科医が北檜山国保病院に巡回してくるのを待つだけなんだから・・・。」
俺の子供は、牛以下の医療環境に置かれるのか?
「子供が病気したとき、獣医さんを呼んじゃダメですか?」
「バカ言うんじゃない!」

 子供が大きくなって、既に町を離れた人から
[そんなに心配しなくても大丈夫だ!八雲に連れて行けば医者はいるんだから・・・」
と言われたが、お二人は丈夫でとても良い子を育てられたから、俺のようなやっと子供を授かり、育てていこうと思う者の気持ちは、おわかりにならないのだろう。八雲でも小児科医が不足しているという話は知らないんだろうな〜?


 久しぶりに師匠と、大豆やソバの話をして楽しかった。
「今年は、味噌でも浸けるか?」
「いいですね!」