もとつぼとの別れ

 とうとうもとつぼ8188にお別れをする時が来た。
 今日の船は、日帰り片道航海になったのだけど、今日の船で帰る俺と入れ替わりに、もとつぼは鹿児島に上がっていく。牧場から港までは、Y君が運んでくれた。
 厳つい顔だけど、若い頃にブラッシングしながら毎日話しかけたおかげなのか、もとつぼはとても人当たりが良い従順な牛だ。このまま、最期までうちの牧場で飼いたいくらいなのだけど、経済がそれを許さない。
 北海道から連れてきたなかぼく、めろん、あや、ももか等、牛飼いになった初期からのつきあいの古い牛達は、死んだり廃用として売ってきた。
 特に大好きだったももかは、種が付かなくなっても置くつもりでいたけど、足を痛めてしまってだんだん歩けなくなっていった。完全に歩けなくなると、ここでは死ぬしかないし、死んだら埋めるしか無い。だから、まだ自力で歩けるうちに売った。苦しみを無くすために、殺処分するのは心が痛むのだ。それより、ちゃんと肥育されて美味しく食べてもらった方がましだ。これから来るであろう別れに対し、俺はできるだけ心の負担を減らそうとしていた。
 もとつぼ、さようなら。君やももかには、牛飼いになったばかりの頃にずいぶん助けられたね。ありがとう。