大好きな牛

 もとつぼ8188は、日本でBSEが発生して子牛価格が暴落した年、50万円で買ってきた俺の大好きな牛だ。厳つい顔に似合わず、人間が好きでとても従順である。若い頃に、俺は毎日のようにブラッシングして可愛がった。動物って、そういう恩を忘れないから、牛が脱走する事件が多かった北海道の牧場で、彼女は俺が呼ぶと着いてきてくれたし、群れをリードしてくれた。牛の群れのボス牛達と心が通じ合っていたために、群れの掌握がかなり楽だった。
 血統も良いから、生まれる子牛はいつもとても高かったし、買われていった地方の方から、品評会で次席に選ればれ一番高く売れたから、もっと生産してくれたら全部買うからって言われ、受精卵移植で産れた牛をみんな買い取ってくれ、俺はずいぶん助けられた。その子牛達も、BMS11とか10とか9という好成績を出してくれたので、お返しもできていたと思う。
 繁殖成績もとても良かったのだけど、硫黄島に連れてきてから体調を崩し、なかなか受胎できなくなってしまった。前回の受胎の時もいろいろ試した結果ようやくだったのだけど、ほおずきを出産した後また受胎しなくなり、周期も乱れ卵胞が確認できなくなった。年も年だし、とうとう出荷するしか無いと判断した。
 妊娠していない牛を観察する放牧地はいっぱいなので、牧草の豊富な黒島崎放牧地に移動させることになった。いつかはそうなるモノなのだけど、やっぱり寂しい。