東京からのお客さん

 昨日から今日の午前中にかけて、穏やかな海だったのだけど、お昼頃から風向きが変わって・・・。
 それでも、東京からのお客さんが島にやってきた。二泊三日の予定だったのだけど、一泊二日の強行軍だ。
『これから荒れる海に潜るの?』
『俺は、案内して見てるだけでも良い?』
『何なら、恋人岬沖の瀬までカヌーで連れて行くから、そこで潜る?俺は、鵜飼いになるから・・・』
 俺は、海の中がどんな状態か想像できたので、なんとか逃げる方法を提案したのだけど、熱い思いを持って硫黄島を目指してやってきた彼の情熱を覚ますことはできなかった。
『サメが出たら、俺は君を差し出して逃げるからね!』
 Yumiとホオジロザメに会ったときは、体を張って守ったけど・・・。
 水中は、激しく撹拌されて猛烈に濁っていた。俺は、揺れは大きいけど浅場を離れずに、彼の姿を常に確認できる位置取りで見守った。
 3mmのウエットスーツでも寒くない水温だけど、濁りは不安を誘う。視界の中を60〜70cmくらいのハマフエフキが数尾泳いでいった。これを突いて、こんな濁り水の中で鮫に襲われるのは嫌なので、俺は手を出さない!
 一番の回遊魚ポイントに着いたけど、今この状態では来ていなかった。待てば来る可能性もあるけど、荒れていく海の中で待つのは辛いし、たぶんそんなゆとりは彼にも無いだろう。そう思って帰ることを促して引き返し始めたけど、彼の顔にゆとりが無かったのを読み取ることができなかった。
 帰りしな、70cmを超える大きなアカジョウの姿を見つけた。俺は、沢山の魚の中から、アカジョウのシルエットだけを見分けることができるのだ! 近づいてみたら、しばらく俺を観察した後、さっさと岩陰に逃げていった。
 
 上陸ポイントは、シャンパンシャワー状態だった。4mの銛を折らないように気をつけながら上陸するのは、至難の業なのだ! 波のタイミングと岩を見ながら、なんとか上陸した。道具を置いて、すぐに彼の銛を受け取りに行く。
 無事帰ってきて良かった!
 ここで、誤解が発覚。
 彼は、せっかく来たのだから潜りたいけど、実際に入ってみてすぐに『これはヤバイんではないか?』と感じたのだけど、俺の姿を見つけることができず、引き返す提案ができなかったらしい。常に、10mくらい岸側を泳いでいたのだけど・・・。
 水深が深いところを泳いでいたため、魚はいっぱい居たけど、獲物らしい魚には会えなかったそうだ。残念。