若牛専用湾放牧地

 妊娠していることが確認されたももか、ふくこ、まことを、湾放牧地まで引っ張っていった。
 湾放牧地は島の西北端にあり、亜鉛ドブ漬けの有刺鉄線を貼っても、あっという間にボロボロになってしまう。海水がまともに降り注ぎ、牧草を舐めるとショッパイ。嵐の後は、チガヤでも塩害で赤くなってしまうし、イタリアンライグラスはまともに育たないらしい。
 採草地にしようと努力したけど、表土不足と塩害で放棄され、裸地になっていた場所は、俺が牧草ロールを置いて牛に食い散らかせ、三年がかりで雑草が生えるようになってきた。笹も沢山生えているから餌は豊富なはずなのだけど、ちょっと前まではなぜか柵を破って崖っぷちをのぞきに行くのが流行っていた。そして、可愛いからと言う理由で母牛として残し放牧してあったよもぎが、行方不明になってしまっている。
 牛は、柵が無くても崖から飛び降りたりするほどアホでは無いと思うし、北海道の牧場では崖側に柵なんてしていなかったが、事故は一度も無かった。牧草が少なくなると、崖際ギリギリまで草を求めて牛が降りていって、足を滑らせたり後ろから押されたりして、事故が起こることもあるようだ。だけど、ここには十分な牧草が生えており、乾草も置いてあるのに、何でそんな危険なところに行くのかわからない。
 事故が起こる前に、柵を直さなければならないけど・・・。