嵐の中の出産

 午前3時頃、ゆめから駆け付け通報メールが届いた。眠気覚ましにコーヒーを飲み、出かけた。初産のゆめは、苦しんでいた。ちょっと様子をみてから、助産に入る。一人で引っぱる力なんてたかが知れているから、すぐに滑車を用意した。すでに立ち上がれなくなっていたので、そのまま引っ張り出した。
 大きな雄子牛なので、夢太郎と名付けた。
 ゆめの助産をしている最中に、やすひめから駆け付け通報メールが届いた。ゆめの助産や夢太郎の世話をしながら様子を見たが、全然進む様子がなかった。夜も明けてきたので、一度帰り出直す事にした。
 ちょっと仮眠し、朝食を取ってから出かけたら、やすひめはまだ産み落としていなかった。慌ててロープで繋ぎ、内診したら、あるはずの頭がない! よく調べてみたら、体位は正常なのだが、かなり奥の方で首が折れ曲がり、頭は腹腔下部の窪みに落ち込み、指が届かない!
 すぐにYumiに電話して、他の牛の世話を頼み、俺は助産に専念した。
 こういうときは、一旦子牛を押し戻して、頭を正常な体勢にしてから産ませると決まっているのだが、押し戻してもやすひめは産みたがるから、すぐに出てきてしまう。救いは、もとつぼが寄り添って、やすひめを立たせてくれているから、寝てしまうより押し戻しやすいことだ。約一時間かけて子牛の蹄を俺の腕目一杯の長さまで押し戻し、揺すったりして頭を窪みから浮かせ、ようやく鼻先をとらえて頭を正常位置に持ってくることが出来た。
 これで一安心と思ったが、胎児が大きすぎて、滑車でひっぱっても出て来ない。助産用の潤滑液をこれまでに4リットル子宮に流し込んでいたが、更に2リットル注入して全体に広げ、助っ人に来てくれた人と一緒に引っ張り出した。大きな雄子牛! 靖姫四郎と名付けた。
 
 長時間子宮内をかき回したので、感染症が心配だった。獣医さんに相談して、子宮内を消毒した。
 大変だったけど、母子共に救えて良かった!
 同室のもとつぼは、母親と一緒になって、靖姫四郎を舐めていた。