凍える潜り

 朝の仕事を急いで終え、Y君と海に出かけた。実は、去年の10月にカヌーで潜りに行ったとき、岩場からカヌーに乗り込むときに転覆して、大切な銛の部品と、貸し出し用に持っていた銛一セットを、海底に沈めたままにしていたのだ。一人で行くのは大変なので、冬の間は取りに行くことが出来なかった。やっと暖かくなってきたので、馬力のあるY君をエンジン代わりに誘ってカヌーをこぎ出すことにしたのだ。
 気温がかなり上がり、俺はY君に5mmのウエットスーツを貸す用意をしたのだけど、彼は裸で出かけることになった。俺は、1mmのライトスーツだ。
 出かけてみると、意外に風が冷たく、向かい風だった。
 40分かけて到着し、岩場にカヌーを持ち上げる。一人では、ちょっとつらい作業だ。すぐに、銛を落としたポイントに潜る。
 銛の部品を探すのに、5分くらいかかった。すでにステンレスはサビ、グラスファイバーの表面は海底付着生物で覆われていた。使えるようになるだろうか?
 貸し出し用の銛は、もっとひどい状態だった、アルミ合金が溶け出して、ぼろぼろになった部分もあった。使えるようにはならないだろう! 
 
 水温はかなり冷たく、気を抜くと震えがきそうだった。
回遊魚かハタを狙っているのだけど、自慢の長銛は継ぎ手を回収したけど、すぐには使えそうに無いので、短いまま使っている。群れで接近してくる回遊魚なら、問題ない長さなんだけど・・・。
 いつもアカジョウがいるポイントで、寒さに震えながら待ち、やっと見つけたのだけど、アカジョウって安全認識距離が大きいので、4mの長銛でぎりぎりで、それ以上近づくと背を向けて逃げてしまうのだ。俺は、食べるために魚を突くから、身が大きく傷つくような捕り方(背中から突くような・・・)は出来ない。水深10mくらいのところで、岩陰から近づこうとするけど、自信のある射程距離に入る直前に逃げられてしまう。一か八かで突くこともで切るけど、魚を無駄に傷つけたまま逃げられるのは、自分が許せない。
 三匹のアカジョウとそんな追いかけっこをした後、寒さに耐えかねて帰ることを決意した。Y君も、生まれて初めてメジナを突いたのだけど、寒さで体がまともに動かない。しばらく温かい岩の上で体を温めてから、帰路についた。
 
 歳をとって、潜りがつらいと感じることがあるって俺が言ったとき、かなり驚いていたY君だけど、頭痛がしたり吐き気を催した今回の潜りで、俺が言っている意味がわかったかな?
 
 カヌーを回収するとき、岩の上で滑り、凍えて動きにくくなっている俺は、手を着いた拍子に、右小指を脱臼してしまった。あり得ない角度に曲がってしまった小指を、自分で引っ張って間接を入れ直したけど・・・。
 
 そうそう!
 Y君の卵を、初めて食べた。黄身の色が薄いから、栄養失調ではないかと噂を聞いていたから、どんな卵かと思ったら、とても美味しそうな新鮮そのものって卵だった。黄身も、薄くない! 美味しいふわふわオムレツになって、とても美味しくいただいた\(^O^)/