雨の中の捜索

 雨の中仕事をしていたら、近所の牛飼いさんがやって来た。
「出生日をだいぶ過ぎたのだけど、お産の兆候が急に消えたような気がする。ちょこっと出したときに、外で産んだのかもしれない疑いがあるから、ちょこっと調べてみてくれ!」
との依頼だった。さっそく行って、直腸から内診してみたのだけど、肩まで手を差し込んだのに、子牛らしい塊には触ることが出来なかった。産道は下がっているし、おっぱいもかなり張っていて、搾れば乳が出る。妊娠牛に手を突っ込んだことはあまり無いけど、お産前十日くらいの牛を触ったときは、子牛の足と頭が、すぐそこまで来ていた。獣医さんに聞いても、予定日を9日も過ぎて、肩まで手を突っ込んでも触れないって事は、外で産んだ可能性が高いっていう判断だった。
 本降りの中、放牧地の竹藪に捜索に入った。俺は、ゴロウとカイトの助けも借りた。うちの放牧地に比べると、竹藪の厚みが無く、面積もかなり狭いのだけど、男三人が二時間近く歩き回ったのに、何も見つけられなかった。ゴロウとカイトは、雨の中でもカラスの死骸を見つけていたのだから、もし子牛が死んでいたのならば、ほぼ全域を二周歩き回ったのだから、見つけられないはずが無いと思う。
 一度外に出した母牛を、もう一度内診してみた。奥の奥を手で探ってみたら、指の先端に蹄らしい固いものが触れた。さらに手を奥に突っ込み、探ってみたら、顔らしいものにも触れることが出来た。
「ごめん! 入っていた!」
 先ほど手を入れたことが刺激になって、子牛が少し排出されたのかもしれない。この牛は、前の獣医さんに内診してもらったときも、子牛は入っていないって言われて、何で発情が来ないのだろうって不審に思っていたら、実は妊娠していて出産した事があるらしい。
 もしも、誤診していなければ、ずぶ濡れになりながら二時間も竹藪の中を歩く必要は無かったのに・・・って思ったけど、子牛が無事だったのだから良いよって言ってもらえた。どうもすいません。