ふじつぼ出産

 ふじつぼ(華春福産子)は、生まれた時から美人で、とても可愛がって育てた牛だ。そのふじつぼが、一次破水したのは朝四時だった。初産なので、どんな出産事故が起こるか判らないので、早めに駆けつけた。だけど、簡単には出て来ないから、ひたすら待ちだ! 車の中から、ふじつぼの様子を伺いながら、体力を消耗しないように待ち続けた。監視カメラをつけさせてもらえれば、ベッドの中からモニターを見るだけで待てるので、全然楽なのだけど・・・。
 出勤してきたK君と交代で、俺は一旦仮眠するために家に帰る。
 十時過ぎになって牧場に出かけたら、前足が出ていたので、助産を開始した。
 ふじつぼは、なんの抵抗もなく鼻輪をつかませてくれるので、ロープでしばって子牛の前足に、産科チェーンをひっかけ全体重をかけて引っ張る。だけど、なかなか出て来ない。子牛がかなりでかい。
 K君の研修を兼ねて、カウヘルパー(助産用の8倍滑車)を使う事にした。一人で八人力の力を加減しながらかけられるこの滑車は、難産の時に絶大な力を発揮する。
 産まれたのは、大きな雄だった。名前は、藤壺太郎(百合茂)だ。大きく産まれた子牛には、立つのに時間がかかる者も多い。この子は、人工初乳を飲ませた後もなかなか立ち上がらず、しびれを切らした俺が、夕方補助して立たせてやった。