お産

 よもぎは、ほ乳瓶でミルクを飲むのが下手だった。頑固者と言ってもいい。
 
 緑10たからのお産段取り通報メールが、昨日の夕方来ていた。だいたい、そのメールから28時間以内に生まれる。出来れば、日中に生まれて欲しいと思って、昼間餌を与えない中間絶食をさせてきたけど、なかなかお産が始まらなかった。
 駆けつけ通報メールが届いたのは、夕方6時だった。
 ちょうど、K君とチビキの刺身を食べることになっていた。あら煮も作って、味わって食べてから、牛舎に行った。
 子牛は、もう産まれていた。いつもは、とても従順で大人しいたからが、子牛に近づいたら俺を威嚇してきた。たいてい、どの牛もそれに近いそぶりを見せるが、たからの目は、本気光線をほとばしらせていた。
「これは、やられる!」
 そう思って、急いでたからの部屋から出て、柵越しに子牛を見るのだが、ずっとたからが子牛と俺の間に入って、ちゃんと診ることが出来ない。こんなに母性が強かったっけ? へその緒の消毒をしたいのに、危険すぎて出来ない。
 ただ、母親の剣幕に驚いた子牛が、なぜか水槽を飛び越えて外に出てしまった。外は激しい雨が降っていたけど、何とかへその緒を消毒して、部屋に戻してやった。あとは、刺激しないように離れて観察して、初乳を飲むのを待った。
 子牛は、大きな雌で、名前は『いぶき』(神徳福産子)になった。