毎朝、揚水ポンプのスイッチを入れてから、K君を迎えに行って、牛舎に出かける。牧場までのわずかな時間が、情報交換にはけっこう重宝していた。
 それも、多分今日で終わりだ。
 牧場長は、今日で故郷に帰ってしまうから、彼女が使っていた軽トラをK君が引き継ぐことになったからだ。
 今日やるべきことをピックアップして、時間内に終わらせる為に、段取りを打ち合わせした。さらに、天気予報と牧草収穫計画について、耳に入れておいた。急に言われると、段取りが着かず慌てるから・・・。
 全部を俺の指示で動いてもらうと、俺一人の能力をそれほど超えた仕事が出来ない。現場で一番良い結果を残せる方法を、考えながらやってもらう方が、きっと能力を発揮できてやり甲斐が生まれるかな?
 
 昨日、哺乳ロボットデビューしたなずなは、すでに自分でミルクを飲んでいた。さすが、天才的な子牛だ。顔つきからして、他の子牛とはちょっと違う。
 それに引き替え、御雪三郎は六日目なのにまだ、哺乳ロボットの白い乳首を憎んでいる。ほ乳瓶の赤っぽい乳首なら、すぐに吸い付くのだけど・・・。朝っぱらから、汗だくになってしまうのだ。
 見回りに行ったら、三カ所の放牧地に、発情している牛が居た。
 
 港に、牧場長を見送りに行った。
 二年半、お疲れ様でした。お元気で・・・。K君は、ジャンベを叩いて送ってくれた。