日帰り片道航海

 昨夜9時半、駆けつけ通報メールが来た。間を置いて行ってみたら、赤13えいこのお産が始まっていた。前足が見えている。
 敷き藁を沢山敷いて、生まれた子牛が汚れないようにした。
 助産のタイミングは、意外に難しい。前足が出たから、すぐに引っ張り出した方が良い時もあれば、自然に生ませた方が良い場合もある。時間がかかりすぎると、子牛も母親も体力を消耗してしまうこともあるし、早く引っ張りすぎると、まだ開いていない産道を無理矢理こじ開けることにもなりかねない。
 今回は、自力で生ませた。生まれたのは、元気な雌だった。名前は、いろはにした。大人しいえいこだけど、いろはのへその緒を消毒しようとしたら、襲ってきそうな気配を醸し出した。繋がないと、子牛には触れなかった。こんなところで、冒険はしたくないのだ。
 
 台風のため、船は片道日帰り航海となった。明日の船で、競りにいこうと思っていた俺は、一日早く行かねばならない。
いろんな仕事のことを考えると、島に残った方が良いとも考えられるのだけど、6頭も出荷して牧場主が競りに来ない事で失う信頼や、新鮮な情報収集のチャンスを逃さない為には、競り当日は俺はどうしても居た方が良い。
 やれることを、やるしか無い。
 昨日借りた餌を、子牛を中心に配給した。沢山食べるから、無くなるのが早い。これまでのタイミングより、ちょっと早く注文しなければならない。
 
 牛の移動をした。
 出産後のおゆきを、小屋下放牧地に移動させた。小屋下から、三頭黒島崎や大浦の放牧地に移動させた。小屋に居た若牛二頭を、湾放牧地に移動させ、湾から臨月になったはなこら二頭を連れ帰った。
 
 海は、ちょっと荒れていた。