六月燈

 今日は、六月燈の準備が朝からあった。牧場長は、踊りに参加するし、朝から休みだ。準備は青年団だから、俺もK君も行かなければならないが、牧場の仕事も大切だ。K君に牧場を任せ、俺は青年団の仕事に行った。
 青年団では、焼きそばや焼き鳥、フランクフルトやかき氷、ビールまで、すべて百円均一だった。たいてい原価割れで、売れば売るほど赤字なのだけれど、みんなが喜んでくれたら良いという考えで運営されている。
 俺の担当は、去年と同じ焼きそばだった。炭火コンロと鉄板を、最適と思える場所にセットするのに時間がかかった。
 
 牧場では、阿鼻叫喚な事態になっていたらしい。
 K君のメールでは、ローズが脱走して、子牛用のエサを備蓄した大型のバケツをひっくり返し、糞尿を撒き散らしたという。その糞尿の量が半端ではないと言う事を聞いて、ローズは無実では無いかと思いつつ、善処するよう願うしか無かった。
 牧場に行ってみたら、辺り一面牛の糞尿だらけだった。それも、一頭では無く数頭の群れで襲われた物だった。さんざん破壊工作をした挙げ句、ローズが出入りしないように張ってあったワイヤーも千切り、ビックリしたローズが出てきて、濡れ衣をおわされた物らしい。
 問題の脱走牛は、どこから来てどこに行ってしまったのか? 捜索を開始して間もなく、灯台下放牧地のめろんをはじめとする数頭の姿が見当たらない。一応、第一容疑者として捜査を開始した。どこに消えたのだ?
 脱走したときは、近隣の農家を襲っていないかが、一番気にかかる。そちらに行ったが、そういう痕跡は無かった。うちの牛なら、灯台下採草地の牧草を食べている可能性もある。でも、いなかった。飛行場も探した。
 次の可能性として、ローズの所から、ちょっとだけ低くなったバラ線を飛び越えて侵入した可能性を考え、小屋下放牧地を捜索したけど、バラ線は切れていないし、群れに不審者は入っていなかった。
 隣の牛が脱走して、俺が捜索する前に戻したのだろう。一言、声をかけてくれたら、無駄な時間を使わなくて済むんだけどね・・・。
 
 夜は、六月燈だった。
 青年団は、ひたすら焼き物を作り続ける。そもそも、焼きそば百円は、安すぎる。皆さん、まとめて買って、家の冷蔵庫に入れるとか・・・。俺は、完成した焼きそばをパック詰めする仕事だけだが、焼き係の人は熱に炙られて大変だったであろう。
 でも、最後に演奏されたジャンベや、それに伴う踊りは、なかなか盛り上がっていた。