ソックスの調教の成果

 牧場体験最後の朝は、子牛の出荷と重なって、朝が早かった。でも、ちゃんと頑張って早起きしてくれた。
 俺は、トラクターの準備に行く。充電は完了していたが、バッテリーの接点が腐食しているから、セルが廻らなくて焦った。

 早めに積み込んで、港に行った。
 牧場に帰ると、ポパイは馬装されており、すぐに出発した。港まで、早足で向かう。下り坂なので、放っておくとどんどん速度が増してしまうので、ときどき手綱で抑える。
 港には雁もいて、お嬢様方との別れを惜しんでくれた。

 準備して行ってみると、ポパイが怒っていた。用意されたコンテナは、ポパイには天井が低すぎて、つっかえてしまう。子牛が4頭入っている方が、天井が高かったので、皆さんにお願いして入れ替えていただいた。ありがとうございました。
 港では、離任する島の学校の教師達を送るセレモニーがあり、ジャンベの演奏もあった。最後に、ジャンベの演奏を見ることがで来て、ラッキーだったね(^_-)-☆

 「ヨネさんって、誰?」
面と向かってそう言われると、ちょっと困ってしまうが、彼らにとっては不思議な存在だったようだ。異性としてでは無く、教師としてでも無く、もちろん父親としてでも無い。そういう人との共同生活は、彼らにとってとても不思議な体験だったそうだ。
 これから、寂しくなるな。救いは、島で見送ったのでは無く、一緒に鹿児島まで来られたことだ。

 鹿児島港では、お嬢様方の見送りや、牛を競り市のある伊集院への搬送、ポパイを川辺の馬事公苑に搬送する手配、NHKの取材・・・。
 幸い、牛の搬送にはついて行く必要が無くなったので、俺はポパイに着いて川辺に行くことにした。ポパイは、なんの抵抗も無く馬運車に乗った。
 お嬢様方との別れを惜しみたかったが、また来てね!とだけ言って別れた。

 川辺に着いたポパイは、ちょっと興奮気味だった。久しぶりにソックスに会い、鳴きかわしをしていた。
 まだ始まったばかりだが、ソックスの調教の様子を見た。そして、感動してしまった。
 調馬策で、追いムチ無しに早足から駆け足になり、さらに障害まで飛び越えていたのだ。
 騎乗調教を見たが、軽速歩が伸び伸びしていて良い! 急旋回・急停止・ジグザグ走行など、不安定だった駆け足も、安定した伸びのある走りに変わっていて、目を見張った。速い! ゴーグルをかけるわけだ!
 「乗ってみませんか?」
と言われて、戸惑った。ブリティッシュの鞍で乗るのは、怖かった。そう言うと、すぐにソックス専用のウエスタン鞍を持って来てくれた。
 まずは、早足を試した。安定している。すぐに、軽く駆け足しても進路がぶれない! 手綱を緩めると、どんどん加速する。これは、楽しい! 乗っていてワクワクする馬になった! ポニー競馬用のコースを走ってみたが、馬体をバンクさせて高速で駆け抜ける。
 さすが、と畜されるはずだった馬を自分で調教し、馬術競技障害で国体三位入賞は、伊達では無いのだ!
 久しぶりに、本物のプロの仕事を見せてもらった。