水中の風景

 毎朝、牧場に行く途中の坂道から、港を見下ろす。毎日、違った顔を見せてくれる。今朝は、テトラ周辺を濁り水が覆ってしまい、突きン棒漁は不可能だ。堤防では、生きた魚を餌にして、泳がせ釣りをしていた人が、7号の糸を切られている。どんだけの大物が居るのだろうか?
 先送り先送りしてきたが、チビ子牛たちを捕まえて、耳票を着けた。そろそろ牛舎から出して、放牧地に移ってもらう必要があるのだ。一旦外に出て混ざってしまうと、個体識別が困難になる。
 これまで、怖い思いをしていない子牛たちは、俺が近づくと不思議そうな目をして寄ってくるのだ。この気持を踏みにじりたくないのだが、それを言っていると仕事にならない。ささっと捕まえて、パチンパチン!耳票には正面から見えるように名前が書いてあるので、個体管理がやりやすくなるのだ。

 港がダメなので、坂本温泉に行った。本来のポイントは、そこから一時間も泳いだ場所らしいが、俺には休日は無く、昼休みだけしか潜れないので、近場しか行けない。そこで、誰も行かない深場に行く。
 遠浅の海をかなり沖に出たそのポイントは、透明度が高く、魚種も多い。俺が素潜りする理由の一つに、綺麗な海で爽快感を味わいたいというのがある。透明度20m以上あり、視界の中には様々な魚が群れている。大きなウミガメが、俺の周りを偵察遊泳し、メジナアオブダイ、ツバメウオ、イスズミ、フエダイ、アカヒメジ・・・。空を飛んでいるような錯覚に見舞われ、とても気分がよい。

 40cm前後のイシガキダイは、とても好奇心が強く、水面を泳ぐ俺を見つけると、気になって仕方がない。岩の割れ目から出てきて、『何あれ何あれ?』っと見に来る。伊豆では、50cm以上のイシダイしか捕らなかった俺だが、40cmを超えていれば、良いでしょう?
 バラハタが居た。このハタは、何時も泳いでいて、ほとんど止まらない。水深8mくらいまで潜ってねらいを定めるが、何時も追いかける形になり、3.5mの銛の射程に入っても、後ろ姿になってしまう。このまま撃つと、背中から腹にかけて大きく身を崩してしまう。だから、俺には撃てない。でも、沢山居るので、何時かはモノにしたい。
 60cmクラスのアジアコショウダイが居た。水深10m付近をゆっくり泳いでいる。明らかに俺を意識している。しばらく後を追い、タイミングを見て垂直潜行し、岩陰から一気に距離を詰め、俺に気がついて体を横にした瞬間を狙って・・・。銛は急所に刺さり、暴れることなく絶命した。
 明日のお客さん用としては、充分な獲物が捕れたので、これで終了。取った魚は、出来るだけ早く氷で締める。美味しく無駄なく食べないと、次から捕れないのだ(俺の迷信)。