会合 乗馬客

 子牛が少ないと、朝牛舎があっという間に終わる。

 8年前、俺の入った農地は、ゴミだらけだった。
 20台以上の車が、敷地のあっちこっちに捨てられていた。廃サイレージが至る所に放置されていた。谷をゴミで埋めようとしていたそうで、家の周りは町の人が捨てていったゴミで埋まっていた。家や牛舎の周りは、わざと撒いたのかと思うほど沢山の釘が落ちており、土をちょっといじると、ザクザク出てきて、トラクターも車もパンクで悩まされた。牧草地には、電気牧柵に使った針金が捨てられていて、刈り取り作業をしていると、機械にからまって故障の原因になった。
 住宅は、泥靴でそのまま生活していて、分厚く積もった土の下に、フローリング風の床があるとは判らなかった。室内の床には、フンも沢山あった。
 農協との契約では、俺が入る前にゴミはすべて処分すると言うことだったが、前の住民はそのまま出て行き、ゴミを処理したのは俺と師匠だった。針金も釘もビニールも、あとから入植した俺が片付けた。谷に捨てられた数十トンのゴミは、俺の手に負えないから、運んできた土を被せて植物に覆わせて隠した。

 今日、農協と2回目の会談をした。
 驚いたことに、俺が残り2年間の賃借料を払うことですべてが納まると思っていたら、さらに2年間の農地管理料として90万円。予測できない費用の支払いとして85万円のお金を、牛を売ったお金から置いていくように言われた。
 俺にとっては、心外だ。今でこそ、俺の草地は雑草が減ったが、俺が入ったときは、採草地さえヨモギやドンガイ、フキ、ギシギシなどの雑草だらけだった。年2回の採草で雑草が減ったのだから、それまでちゃんと管理していなかったということだ。しかも、草地内にラップサイレージがそのまま埋まっており、ビニールや紐が掘っても掘っても出てきた。
 そんな草地を貸し付けておきながら、次に入る人のために、俺の負担で農場を綺麗に管理するから、管理費を置いて行けとはどうなのだろう?
「おまえが小屋のような物を建てたべ。ああいうものを撤去するんだって、金がかかるんだ。」
???鶏小屋があったら、何か不都合でもあるのかな〜?そこは、ゴミが積んであったところで、それをかたづけたのも俺だ。馬場を作ったところだって、元は車が何台も捨ててあった笹藪で、俺はそこを開墾し、平らに均し、砂を敷いて作った平らな土地だ。感謝されこそすれ、こうやって言いがかりをつけられる筋合いではない。思わず、声を荒げてしまった。
 俺にその責任があるとは到底思えないが、農場が適正に管理されていれば問題ないはずだ。知人に相談したところ、こころよく二年間の管理人を引き受けてくれた。

 今日も、電話が鳴り、千客万来
 乗馬のお客さんがあった。美味しい牛乳豆腐を持参され、喜んで乗ってもらう。
 ポパイに乗るのは、夏以来だ。久しぶりに乗馬するとき、最初の駈け足でポパイは跳ねることがある。乗馬の醍醐味は、駈け足だ。初めて乗馬する人でも、出来れば駈け足まで体験させてやりたい。だから、一旦おれが乗って調整した。ポパイの反応は、悪くない。
 早速、生まれて初めて乗馬する男の子に乗ってもらった。まず、手綱を自分でもってもらい、俺が歩く後ろをついて回るポパイの上で、馬体に慣れてもらう。次に、もう一度俺が乗り、基本的な手綱の使い方を説明した。普通はこれでも判らないモンだ。だが、彼はかなり高いレベルまで理解し、俺が別な来客の相手をしている間、一人で練習して上手に乗れていた。それを見て、駈け足までやってもらうことにした。最初は、手綱に捕まってしまうため(止まれの合図になってしまう)、ポパイは止まってしまったが、ホーンにつかまることを覚えてからは、走らせることが出来ていた。彼もポパイも、エライ!
 もう一人の子は、何度か来たことがあり、馬の扱いも上手だった。ポパイの息づかいを感じながら乗れていたので、安心だった。

 住宅の半地下室は、木材などが置いてある。それをもらってもらう代わりに、掃除をしてもらった。期待以上に綺麗になり、感激してしまった。