融雪洪水に沈む

 家の牛舎や乾草庫は、敷地の一番低いところに建っている。
 なんでこんな考え無しの作り方をしたのだと、天を呪ったこともある。降った雨は、傾斜によって集められ、すり鉢の底にある乾草庫や牛舎に流れ込み、俺の仕事を増やした。
 入植して数年間、俺は水との闘いに明け暮れた。沢山の暗渠排水を掘り、道を流れる水の排水路を作り、牛舎や乾草庫の床面より周りを低くなるように掘ったり、乾草庫にはダンプ数杯分の貝殻を敷いた。
 おかげで、湿地のようだった牛舎周辺は乾燥し、雨が降ってもぬからなくなった。牛舎内の雨水が流れ込むことは、ほとんど無くなった。

 道路を雪解け水が流れていたので、牛舎に流れ込まないように、昨日のうちに溝を切っておいた。分厚い氷で床より高くなったパドックも、鍬で溝を切って、水は沢に流れるようにしてあった。
 甘かった。
 シャッターを開けて中に入ったら、中の空気がやけに潤っていた。子牛が水の中に立っており、足下の敷きワラが水に浮いていた。こんなに水浸しになったのは、何年ぶりだろう?
 俺が入植する前は、バーンクリーナーがあって、その溝が水を受け止めていたから、こんなに水が溜まることもなかったのだろう。スイッチを入れれば、バーンクリーナーが敷きワラと一緒に水も排水してくれたと思う。
 今朝の俺は、1時間以上箒を使って水をかき出し続けた。
 俺がいつもと違うことをしていると、蕾次郎が邪魔しに来るのだ。箒の可動範囲に頭を持ってきたり、俺の服を咥えて引っぱったり・・・。
 だいたい排水したところで、原因を調べてみた。
 水は、流れ込んだのではなく、湧き出したようだ。流れ込んだのなら、流入口の工夫で防げる。だが、床のヒビから湧き出した場合、手の打ちようがない。何度かき出しても湧いてくる水を、しつこく何度もかき出した。おかげで、牛舎の床が、綺麗になった。