削蹄

 気温が上昇し、すっかり春だ。牛舎の水場の床全面に張った分厚い氷も、午後には柔らかく砕きやすくなった。
 今日は、モモコへの受精卵移植の予定だった。昨夜、うっかりしてモモコも放牧に出してしまった。でも、うちの牛は、声をかけるとみんな帰ってくるのだ。一頭を捕まえるために、全部の牛を捕まえなければならないが・・・。
 せっかく呼び戻し、獣医さんも来てくれたのだが、モモカの黄体はあまり良い状態ではなく、今回の移植は見送りになった。
 蹄が伸びすぎて、まるでハイヒールでヨタヨタしているセリナだが、意を決して削蹄した。
 セリナは、痩せていて、食べても太らないのに、角と蹄だけは人一倍伸びる。 
 蹴られないように足をしばって、良く研いだ鎌で削り取る。意外に、大変な作業であった。

 おやつを食べずに夜牛舎に行ったら、久しぶりに激しいシャリバテになってしまった。低血糖になって、全身の力が抜ける。
 食糧危機になったら、真っ先に餓死するのは、俺だな。