出産日より

 昔の俺を知っている人は、きっと信じてくれないと思う。最近の俺は、暇があると映画を観ているのだ。映画館ではなく、レンタルDVDやGyaOを利用している。
 今日は、『手紙』を観た。山田孝之が、良い演技をしていた。日本映画のファンとしては、沢尻エリカに復活して欲しいところだ。昨日観た『幸福の食卓』も、暖かくて切なくて、なかなかよかった。
 仕事が仕事なので、以前のように遊びに行くわけにはいかない。今置かれた環境の中で、ちょっとでも楽しく過ごすことが、俺のモットーだ。
 昨日より、気温が2℃上がった。母牛はこのチャンスを逃さない。
 2週間ほど出産が遅れていたミノリだが、午後1時頃に陣痛が始まった。これは楽勝だと思っていたのだが、全然出てこない。夜牛舎を終えて、晩飯を食い終わってやっと、一次破水があった。
 助産していたら、ナミコも陣痛が始まった。今夜は、長くなりそうだ。
 ミノリの出産が、午後7時。とても痩せていたので、早めに牛舎側放牧地に移動させ、配合飼料を食べさせていたのが効いたのか、大きな雄だった。名前は『美野里次郎』(北平安)。母親に体を舐めさせた後、家に連れ帰って暖める。
 ナミコの一次破水は、8時頃だった。前足が見えるまで、『マーサの幸せレシピ』を観た。キャサリン・ゼタ・ジョーンズの『幸せのレシピ』とストーリーは同じだった。俺は、完璧主義者の女の人は、ちょっと苦手だ。抜けすぎているのは、もっと苦手だが(^^;;;
 午後9時に前足が見えて、車で駆けつけてみたら、もう生まれ落ちていた。小さな雄子牛だった。名前は『浪五郎』(福栄)。ナミコは太っていたので、配合飼料をあまりやれなかったのが、小さい原因だろうか?
 羊水を舐めさせ、俺も拭き取って、部屋が汚れない程度に乾いたところで、この子も居間に連れ帰った。2頭とも体を拭いてやりながら、映画を観た。いくら拭き取ったと言っても、生まれたての子牛が2頭も部屋に居ると、やっぱり汚れる。ヘソの緒の血が床を汚し、毛布からはみ出した体は、床に羊水の跡を着けた。洗濯物の所に行ってヨダレを垂らすし・・・。でも、暖かい部屋の方が、子牛にとっては楽だ。
 美野里次郎は、大きくて活発なのだが、口が堅くてミルクを頑として拒んだ。小さな浪五郎は、早々と人工初乳を飲み干し、ストーブの前に立ち、ソファーの肘掛けを舐めていた。
 1時まで粘って、なんとか美野里次郎にも人工初乳をのませ、牛舎に連れて行った。