カイトの成長 ミス 長い夜

 カイトは、3年半ほど前に我が家にやってきた。とても人懐こい犬だ。俺に良いところを見せたいといつも思っているが、出来のいい兄貴ゴロウの邪魔ばかりすることになっていた。牛追いが上手に出来るようになっていたゴロウだったが、カイトが来てからは気が散って出来なくなった。ソリも、棒拾いも、邪魔ばかりする。でも、とても可愛いヤツだ。
 行方不明になったときは、探して隣町までの往復100kmを7往復した(東京―青森間)。
 去年の暮れ(昨日か!)、カイトは初めて、空のソリを牛舎から家まで引いていった。最後まで投げ出さずに、真っ直ぐ引いていく姿は、とても凛々しかった。彼の中で、何かが開花したようであった。
 新年最初の出勤を、犬ぞりで行った。いつもは邪魔するカイトだったが、ゴロウが引いている紐を一緒にくわえ、牛舎まで真っ直ぐ走ってくれた。すごく嬉しかった。写真を撮れなかったのが残念だ。

 牛舎作業は、いつもどおりだ。雪が重くて、糞出しの一輪車が進まず、苦労した。

 夜牛舎も、問題なく終わるはずだった。俺が、ミスをしなければ・・・。出産間近のモモコを、間違って離してしまったのだ。暗闇から、十何頭の牛を見分けて1頭を連れ帰るのは無理だ。全員呼び戻すが、モモコは帰ってこない。
 日が暮れたと言っても、雪景色の中で黒い牛は見つけやすいはずだ。だが、何所にも見あたらない。足跡をたどるが、脱走した痕跡はない。ミゾレが降り、よく見えないのもあったが、かなりの時間を費やした。
 これを放置すると、たいてい外で出産していることになる。このミゾレでは、子牛は助からないかも知れない。必死に探す。
 途方に暮れて、途中まで戻ったところで、パッタリモモコと出会った。何所に隠れていたのだろう?牛舎に連れ帰る。
 今深夜12時だが、多分今夜出産すると思う。