パワステ壊れる

 機械というのは、ちゃんと動いてナンボのものである。
 今朝は、とても快調に目覚めた。体も気持ちも軽い。久々の絶好調ってヤツだ!素早く朝飯を食べ、さっさと朝牛舎を終える。昨日テッターをかけた牧草に、もう一度テッターをかけてひっくり返し、レーキして、ロールして、集めて・・・。明るいうちに終わる予定だった。
 クボタは快調だ。テッターの後、牛舎をチェックする。気温が上昇し、子牛たちは沢山水を飲むのだ。乾草もよく食べている。俺も水分を補給し、すぐにレーキに行く。午前中早くに、レーキを終わらせることが出来た。
 弁当を買って、早めの昼飯を食い、フォードでロールベーラーを引っ張って行く。最初のロールを巻き終えて、機械から排出する場所に行こうとして、異変に気がついた。ハンドルが切れないのだ。パワステが効かない。
 すぐに機械屋さんが来てくれた。溶接で補修してあったパイプに亀裂が出来、オイルが漏れていた。
「これを補給しながらやってみて!」
パワステオイルを、1リットル渡された。半分ほど入れて、動かしてみると、ハンドルが回る。『ヨッシャー!』ッとはりきってみたが、ロールを2個作ったところで、もうハンドルが重くなってしまった。すごい勢いで、オイルが漏れているのだ。整備不良と言うより、たった今壊れたのだ。古い機械だから仕方ないのだ。残りのオイルを入れたが、すぐに漏れてしまった。
 機械屋さんに電話したところ、パワステオイルの在庫がないという。代用品のオイルを用意できるが、配達してくれる人が居ないそうだ。取りに来いッたって・・・。
 試練とは、それを乗り越えられる人に、神が与えるものだと言うのを、聞いたような聞かないような・・・。100馬力4WDのフォードで、重たいロールベーラーを引っ張った状態で、パワステ無しで、作業した。
 止まっているときは、どんなに力を入れてもハンドルは動かない。前進しながら、両手で渾身の力を入れれば、ジンワリとハンドルが回るのだ。小回りは効かないし、微妙な軌道修正が出来ないので、何度も牧草をロールベーラーに詰まらせてしまった。その度に降りて、詰まった牧草を引っ張り出す。
 ものは考えようで、筋トレをしていると思えば・・・ってそんな余裕はない。絶叫しながら、ハンドルを回す。今日の収穫をあきらめればいいのだろうが、雨がしばらく続くと、集めるのも嫌になるような黴だらけの牧草になるのだ。そして、放置すると、次の収穫の時邪魔になる。
 握力が限界に達しそうな頃、35個のロール全部を巻き終えた。30個分は、パワステの力を借りずに作った貴重なロールだ(意味がないが)。帰り道でも、かなり苦労してハンドルを握った。腕がパンパンで、上半身が凝り固まっている。
 すぐに、クボタにトレーラーを着けて、ロールを集めに行った。全部集め終え、夜牛舎を終えたのは、10時だった。俺が家に入るとき、遠くで、まだトラクターの音がしていた。雨が降る前は、みんな必死なのだ。
 疲れによる吐き気と闘いながら、犬達を家に入れてビックリ!ゴロウはドブの臭いがする。カイトはずぶ濡れだ。慌てて外に出し・・・。挫ける。