大脱走

朝牧場に向かったら、道に牛糞が落ちていた。
「誰か、脱走した!」
 ちょっと緊張しつつ、牛舎に到着した。
 牛舎の前で、隣の牛が二頭待っていた! ゲッ! って思っているうちは良かった。車を止めるところまで来たら、牛舎の中から続々と隣の牛達が出てくるのが見えた。隣の牛が、全員で遊びに来たようだ。
 こんな時に限って、新しい牧草ロールを出したばかりだ。それを広げて踏みつけ、糞尿をたれて混ぜておいてくれた。えさ箱のふたを開けて・・・。阿鼻叫喚の世界とは、こういう所だろうか? 十数頭の牛は、俺一人で追い払うのは限界があった。しかも、追い払ってもすぐにまた帰ってくる。全く仕事にならないので、畜主に連絡して来てもらう。牛が押し合いへし合いしている通路で、下手に追い出そうと中に入ると、大けがをさせられることもあるし、ものすごい力で設備を破壊されることも・・・。興奮させないように、穏やかに追う。
 やがてお隣さんがやってきて、牛を自分の牧場に戻してくれた。ところが、子牛が一頭うちの牛舎を気に入ったのか、追っても逃げずに居座ってしまった。
 俺の脚では、追い払うことができず、隙を見て元の場所に帰ってきてしまう。仕方なく、長い棒を持って牽制しながら追って、隣の牧場まで送り届けた。
 荒らされた牛舎は、お隣さんがやってきて掃除してくれた。牛の脱走は、お互い様なのだ。その後、破れた柵を一生懸命修理していた。
 
 お昼は、お肉屋さんのミルフィーユバーガーだった。これは、ご馳走なんだ!